なぜアベノミクスで日本企業のグローバル化がなされると、「ユニクロ化」は進むのだろうか。
「成長戦略を取りまとめる『産業競争力会議』では、盛んに『クビ切り自由化』、長時間労働を野放しにする『裁量労働制の基準緩和』などが検討されています。これが、ブラック企業増加につながっていくに決まっている」(前出・山下氏)
前出の経済ジャーナリストも決して大げさな話ではないとして、こう続ける。
「ユニクロは本当にグローバル競争に参加している企業だから、まだマシかもしれません。このまま、雇用規制のグローバル化という緩和が進めば、激安居酒屋のような単純労働を強いる国内向け産業がドンドンブラック企業化していくことになるでしょう」
日本企業が「総ブラック化」してしまえば、アベノミクス効果は逆方向に働く。
若者の労働相談を受けるNPO法人「POSSE」事務局長の川村遼平氏がこう警告する。
「若い労働者がうつ病などの精神疾患にかかることは、間違いなく日本の生産力を引き下げることになります。それに加えて、一連の雇用規制緩和が実現すると、日本企業を支えた技術の継承ができなくなります。中年になっても、単純労働しかしたことない人間が増えるということです」
安倍総理は、こうした未来予想に耳を傾ける様子はない。
「行動なくして成長なし」などという掛け声の、威勢だけがいいのが何よりの証拠だ。かつて、唱えた「再チャレンジ」よりもむなしく響くだけではないか。
10年間の時間を経て、ユニクロ時代を冷静に振り返れるようになった前出・大宮氏に「今ならユニクロに戻れるのでは」と差し向けるや、
「アルバイトなら考えなくもないですが、社員としてなら絶対に嫌です」
と、「再チャレンジ」を即答で否定した。
柳井氏は朝日新聞のインタビューでユニクロのブラック企業化を否定して、「世界同一賃金」なる構想をブチ上げた。同じ仕事をしているなら、新興国の労働者だろうと、先進国の労働者だろうと同じ賃金にすべきという考え方だ。そして、このさらなるグローバル化の先にあるのは、「年収1億円」と「年収100万円」の超格差社会だという。
かつて「歯車」と揶揄された会社員。それでも、安定だけは存在した。そんなご時世ではないと知りつつも、世界で勝ち続ける覚悟より「年収100万」の覚悟のほうがたやすく、そちらに流されてしまいそうだ。そんな時代がやってきたら間違いなくユニクロの服さえ買えずに、奴隷のようなつぎはぎだらけの服を着た会社員が闊歩する日本になってしまうだろう‥‥。