ユニクロの「ブラック企業論争」を広く世間に知らしめたのは、「週刊東洋経済」3月9日号に掲載された「ユニクロ 疲弊する職場」という特集だった。
この記事で山下氏が掲げた離職率もユニクロが05年以降、回答していなかったデータを公表させた。そして、12年8月期時点での店舗正社員全体の約3%が精神疾患で休職していることを明らかにしたのだ。
それだけではない。ユニクロ店舗正社員の多くが勤務時間上限の240時間ギリギリまで働いている過酷な実態をも暴いている。現場の声から、社員が追い詰められている原因を「できないとは言えない社風」にあるのではと示唆した。また、大量の退職者の理由を、ユニクロのグローバル戦略に基づく急成長路線にあることも指摘したのだ。
ユニクロを国内外で展開するファーストリテイリング社の会長兼社長である柳井正氏(64)は、11年秋に「2020年に売上高5兆円」という目標を掲げた。その達成のために、年間1500名の店長を育てる方針も示され、新入社員は入社半年後の「店長代理資格認定試験」の合格を目指すことになっていた。入社2年目までに合格しなければ降格人事すらあるという。そして実際に、12年に入社した173人中54人が半年で試験に合格して、エリートとして選別されている。
しかし、ユニクロが急成長したのは、柳井氏の「5兆円大号令」のはるか以前である。厳しい選別の歴史は長く、00年3月にユニクロに入社、その1年後に退社し現在はライターとなっている大宮冬洋氏が言う。
「10年以上前のことですから、今のユニクロとは違う点も多いと思います。でも、『入社1年以内に店長代理試験に受からないとヤバいよ』とは言われていました。もちろん、試験以前に脱落したクチではありますが、当時からユニクロ社員は四半期ごとに評価を受け、目標を達成できなければ、上司から厳しい叱責を受けます。『すみません』だけではなく、いつまでに改善して、そのために『こうします』と言えないとダメなのです。派閥やイジメのようなこともなく、チャンスも平等に与えられる反面、強い上昇志向と叱責に負けない図太い神経がないと社内では生き残れないのです」
大宮氏は著書「私たち『ユニクロ154番店』で働いていました」(ぱる出版刊)で、自身の入社時の青臭いまでの入社動機と現場のミスマッチぶりを、最初の7カ月間を共に過ごした町田店の正社員、準社員(パート)やアルバイトの人々にインタビューする形で描いている。驚かされるのはインタビューを受けた人々の多くは、02年に町田店がスクラップされたあとに、ユニクロを去っていること。そして、併せて記された10年後に同期入社の8割が退職している事実だ。〈僕に言わせれば、やる気がないのに会社に来ることはない。(中略)周囲の人の迷惑にもなるので、クビにしたほうがいいのです〉(大塚英樹著『柳井正 未来の歩き方』講談社。柳井氏談より抜粋)
これからの会社員を待ち受けるグローバル化とは、世界に勝ち続ける意欲なき者は会社を去れ、ということのようだ。