藤田は、武が勝てなくなった原因に、ある有力馬主との関係悪化もあげている。
〈その人から「お前、乗れないな」みたいなことを言われて、あの温厚なユタカさんが怒ったというんだ。07年4月、香港で行われたレースでユタカさんが騎乗した際、(中略)馬主はさらに不満をぶつけた。それを受けて、ユタカさんは静かに、「もう二度と(その馬主の馬には)乗らない」と言った、と俺は聞いている〉
07年4月の香港といえば、クイーンエリザベスII世杯(GI)で3着だったアドマイヤムーン。馬主は大御所の近藤利一氏、生産者はノーザンファーム(社台系)である。藤田は武より以前に、近藤氏とケンカ別れした、いわば「同志」。気持ちがわかるのだろう。
さて、社台グループ、岡田繁幸総帥のマイネル軍団、そしてアドマイヤ近藤氏という大物に反旗を翻した藤田は、こう結論づけた。
〈誰が日本競馬最大の功労者ともいっていい武豊を、今のような状態に追い込んだのか──エージェント制度が導入され、大手クラブや有力馬主の発言力が絶大になり、安易な乗り替わりや外国人騎手の多用を招いた──そんなシステムを作ったJRAこそが、その“犯人”だと俺は思っている〉
諸悪の根源たるJRAに対しては、制裁や騎乗停止などをジャッジする裁決委員のレベルの低さも嘆いている。彼らは一度も競馬をしたことのない素人だ、と。競馬解説者の東濱俊秋氏もこれに賛同する。
「6月2日の安田記念(GI)で勝った岩田騎乗のロードカナロアがダノンシャーク(3着馬)にぶつかったのに10万円の過怠金だけ。あれはひどいと思う」
残り200メートル付近で岩田の左鞭に反応したロードカナロアが右に斜行してダノンシャークと接触し、再度の左鞭でまた接触。後ろから追い上げていたショウナンマイティ(2着馬)も玉突き的に外に振られた。東濱氏が続ける。
「あれは明らかに岩田の“確信犯”ですから。降着するしないではなく、もっと厳しく注意しないと。少なくとも審議なしというのはおかしいし、こういう乗り方を認めたら、そのうち必ず事故が起きると思いますよ。何しろ主催者のJRAが裁いているわけで、例えるなら、東京ドームの巨人×阪神戦で巨人の職員がストライク、ボールを判定するようなもの」
かくも辛口で捨て身の告発暴露本。前出・亀和田氏はあらためて賛辞を贈るのだ。
「藤田にとっては何のメリットもなく、リスクだけが残る。でも、あえて書いたのはJRAの競馬に魅力を感じなくなったからでしょう。彼なりの寂しさ、憤りがあって、辞める前に書いておこう、と」
栗東トレセン関係者は、
「滋賀県内でマンション経営を始めているようで、引退したらそっちでやっていくつもりなんでしょう」
この著書の帯には武の「ヤンチャなシンジらしい、おもしろい本やね」という「推薦コメント」がある。武もきっと胸のすく思いをしているのだろう。