例えば、〈30分以内に社宅を用意すると言いながら、なぜ深夜勤務後、始発電車が出るまで帰れないところに、社宅を定めたのか〉と問いただしても、〈貴重なご意見として承らせていただきます〉との回答。午前3時過ぎに深夜勤務を終えた森さんが始発まで店に拘束され、睡眠時間が短くなったことへの反省の色はまったく感じられない。
せめて店に仮眠室があれば、疲労の度合いは違ったはずだ。そこで、遺族は〈なぜ、身体を横たえることができる休憩室がなかったのか?〉とも聞いたが、ワタミ側は〈(労働安全衛生規則にある)休憩室の定義は、体を横たえることができなければならないとはされていない〉と回答している。そして、休憩室の写真と図面を示されたが、森さんが勤務していた久里浜駅前店とは別の店舗のものだった。
また、〈なぜ、深夜勤務を終えて、普通なら眠っている時間帯に、本社まで出勤をさせて新卒研修会を行うのですか〉と遺族が聞いても、〈貴重なご意見として承らせていただきたいと思います〉と答え、非を認めてはいない。
さらに、残業の設定には法律上、労働者から選ばれた代表との間で「時間外労働・休日出勤に関する協定(36協定)」を結ぶ必要があるが、当時は経営陣が選んだ勤務歴の長いアルバイトとの間で結んでいた。遺族がこのことを聞くと、〈現在は代表者選出を従業員から署名を得て行っております〉とすでに改善されていることだけを答える。
森さんの勤務時期の労働実態を解明したい遺族に、ワタミ側は真摯に答えているようには見えない。
そのせいか、再々質問書にある追加質問には、より厳しい質問が並ぶ。ワタミの内部文書にある「朝起きてから寝るまで働け、起きている間が労働時間だ」を取り上げ、〈安全配慮義務違反を実証する発言ではないですか〉と問いただしている。また、渡邉氏に対しても〈『死ぬまで働け』と言ったということはありませんか〉と質問をブツけている。
遺族の渡邉氏への怒りが込み上げるのも、当然と言えるだろう。なぜなら、森さんの死後、渡邉氏は一度も遺族に面会していないのである。むろん、遺族と渡邉氏が対面したところで、森さんが帰ってくるわけではない。両者が抱える問題が氷解するものでもない。
しかし、社を代表する人間として、遺族の顔を見てわびのひと言があってもいいのではないだろうか。
そこで、本誌はワタミに対して、「ご遺族に直に会う考えはないのか」「労働実態の解明や改善をせずに金で解決しようとしているのか」など、複数項目の質問を送ったが、期日までに回答を得ることはできなかった。
渡邉氏は出馬表明した同日に、公式サイトで「ブラック企業」批判に反論している。離職率や年収など、その基準をクリアしていると主張。時間外労働に関しても、
〈ワタミの外食事業の平成24年度月平均38・1時間。これは36協定で定めた上限45時間を下回っています〉
しかし、ネットでは〈表にならないサービス残業が問題なのに‥‥〉や〈年間平均にすると36協定を破っている〉と、批判を封じ込めるどころか火に油を注いでいる。
第一次安倍政権で教育再生会議のメンバーを務めた渡邉氏。安倍総理から直接の出馬要請を受けたほど、2人の息はぴったりだ。
安倍総理がお経のように唱える「成長戦略」という言葉。本誌には「ブラック企業だけが成長する戦略」と聞こえてきてならないのである。