1976年4月、唐十郎の初監督映画「任侠外伝・玄界灘」の撮影現場に、6発の銃声が響いた。
「なんと撮影に本物の拳銃が使用され、本番前に唐が1発、主演の安藤昇が3発を試し打ちし、本番では安藤が海に向かって2発を撃っていたことが明らかになったんです」(芸能記者)
何回かモデルガンでの試し打ちをしたものの迫力が出なかったために、ホンモノを使うことにしたということだった。すぐにホンモノが手に入るということにまず驚かされるが、これをスクープしたのは毎日新聞。実は、この騒動を映画の宣伝にしてしまおうと、なんと唐本人が仕込んだスクープだったといわれている。
「報道によって事実を知り、神奈川県警が唐と安藤を逮捕。さらに大きく報じられることとなり、12日間の勾留ののちに処分保留のまま釈放されました。翌年、罰金15万円の判決が下りました」(前出・芸能記者)
映画は、予定通りに同5月末に公開されている。「コンプライアンス」なんて言葉もない時代は、こんなにも自由でハチャメチャだったのだ。
大変な話題になったわりには、映画はヒットしなかったというが、アングラ演劇界の旗手としての唐の伝説の一つとして、多くのファンの心に深く刻まれている。
(露口正義)