実家の事情を乗り越え描かれた「ろくでなしBLUES」。特に作中の演出や絵は、今も読者に強烈な印象を残している。例えば、顎の下で手のひらを突き出し、舌を出しおどけるポーズは同作の名物ギャグだ。
「あれは、当時はやっていた明石家さんまさんのギャグだけど、だんだんそっちが忘れられていって、いつの間にか“ろくでなしポーズ”とか言われるようになって。それが恥ずかしくなって途中で描かなくなった(笑)。最後にちょっとサービスで描いたかな。今の芸人さんとかも『ろくでなし』のポーズとしてやってくれるんだけど、『ちゃうぞ!』って(笑)」(森田)
また、特徴的な口の形も印象が強い。いわゆるアヒル口と、顎に“梅干し”状のシワが入る表情は、森田の絵の象徴と言っていい。
「口はこだわりがあって、しゃべっているセリフの最後に合わせ描いてるんです。よく見てもらうとわかるんですけど、『~だぞ』ってセリフなら口が『ぞ』の形になってる。漫画って口を閉じたまましゃべってたりすることあるでしょう? だから、意識してやっていた」
森田作品のもう1つの特徴は、キャラクターの名前が有名人などから取られていることだ。例えば主人公の「前田太尊」は、前田日明とマイク・タイソンから。有名人にちなんだ命名はよくあるが、ほとんどのキャラクターがそのパターンというのは珍しい。
「ボクシング部のキャラクターはボクサーから応援団の選手はプロレスラーから取ってたんですけど、前田太尊はボクシング部でも応援団でもないから両方を混ぜて命名した。でも、本当に僕は名前を付けるのが苦手で。それで他人から取ってきちゃう。たぶん、かっこいい名前とか考えるのが恥ずかしいんだと思います」「ろくブル」の場合、名前だけでなく、実在のタレントなどがモデルになっていたり、そのまま出てきたりすることもあった。有名なのはミュージシャンのブルーハーツで、対談を通じて許可を取り、ボーカルの甲本ヒロトがモデルになった「ヒロト」など、メンバーが主要キャラクターとして登場している。後半には芸人の千原兄弟が本人として登場する。
この他にも、通常は縦長である単行本のカバーデザインを、90度回転させた横長にして使ったり、各話のサブタイトルに英語を多用したりと、当時の少年誌としては実験的な試みが非常に多い作品だった。もっとも森田自身は、
「英語のタイトルとか、今見ると『なんちゅーさぶいことを』と思う(笑)」
と、恥ずかしそうに語るが。