平松氏の解説はこうだ。
「これはどういうことかというと、後半は本当に上がりだけ、つまり最後の3ハロンだけが速くなったのではなく、後半5ハロン全てが速い。中盤から、かなりスピードアップしていることがわかるわけです。だから全体の時計は遅いのですが、レベル的に相当に価値のあるレースだと言えるのです。そこをオルフェーヴルは、持ったままムチも入れずに突き放して、最後は騎手が後ろを見ながら流してゴールインした。フォワ賞は走破時計にダマされてはダメです」
いわゆるスローペースの上がり勝負、直線でヨーイドンの“かけっこ”ではなかったということなのだ。
では、キズナのレースも検証してみよう。
「1ハロンごとのラップを見ると、13秒台を刻んでいるのはニエル賞だけなんですね。後半3ハロンで、フォワ賞はいちばん時計がかかっていても12秒01ですが、ニエル賞はいちばんかかったところで13秒41もある。だから、このレースの価値だけで言うと、ニエル賞は正直、ちょっと落ちるんですね。上がりがかかりすぎているんです。ただ、あくまでも本番を見据え、完璧な状態ではなかったことを考えると、キズナ自身は上がり目が相当見込めると思うので、今回よりもさらに良化し、本番で勝ち負けになってもおかしくないと思います」(前出・平松氏)
そんな両陣営も現地では、それぞれのスタッフがタッグを組み、出走予定の外国馬に関する情報交換もしているという。だが本番が近づくと、空気は一変。
「前哨戦まではエールを贈り合う状態でしたが、現在は言葉の端々に『相手も敵だから』というものを感じますね、お互いに」(現地マスコミ関係者)
その背景に、何やら「因縁」めいたものを指摘するのは、競馬専門紙のトラックマンである。
「競馬サークル内では、クラブ馬より個人馬主の馬を応援する傾向は確かにあります。『個人馬主+武豊』と『社台グループ+外国人騎手』の対決の構図だからという盛り上がりですね。サークル内でも武を応援する人は多いです」
キズナの生産牧場・ノースヒルズの代表は前田幸治氏。ダービーを制した際にはウイナーズサークルで男泣きした。馬主はその弟・晋二氏である。
対するオルフェーヴルは、競馬界最大のクラブ法人、社台グループのサンデーレーシング所有馬であり、鞍上は社台が執心する外国人騎手だ。昨年の凱旋門賞に続き、今回も本来の主戦である日本人騎手・池添謙一に「ダメ出し」し、スミヨンを指名。外国人至上主義を推進している。
かように対照的な陣営だが、武と社台グループの「確執」「因縁」については、本誌も幾度となく報じてきた。引っ掛かる馬を制御し損ねるなどの武の騎乗ぶりに憤慨した社台が、武を「干した」のである。
◆アサヒ芸能10/1発売(10/10号)より