かつて朝鮮戦争で中国人民解放軍(中国軍)は勇猛果敢の働きをしたことで知られる。だが、それが今や「人民解放軍に兵なきか」と侮られるほど士気が落ちているという。背景には70年代に政府が取った「一人っ子政策」が横たわっていて──。
今年9月、沖縄県尖閣諸島の北東約200キロの上空に中国軍の無人偵察機が確認され、海上自衛隊の戦闘機がスクランブル発進を行った。事態を重く見た安倍総理は、領空侵犯した無人機が退去要請などの警告に従わない場合、撃墜を含めた強制措置を取る方針を固めた。
これに対し、中国政府はすぐに反応。
「日本が中国軍の無人機を撃墜すれば戦闘行動と見なす」
と応じた。つまり、日本に戦争を仕掛けるぞと恫喝しているのだ。
外信部記者が言う。
「ずいぶんと好戦的で強気の姿勢ですが、見方を変えれば、これほど滑稽な脅迫は珍しい。軍隊が無人機を使用する一番の理由は、たとえ撃墜されても死者は出ないということです。したがって、無人偵察機はたいてい最も危険性が高く、最も過酷な戦場で使用される。中国が、もし尖閣諸島周辺を自国の支配地域だと本気で考えているのであれば、無人偵察機を送り込んでくるのはどう見てもおかしい。ましてや、日本が専守防衛であることは、近隣諸国は熟知しているから有人偵察機でもいいはずです」
攻撃されるおそれが低いのに、どうして無人機なのか。ジャーナリスト・南郷大氏が言う。
「かつて中国軍はヒューマンウエーブアタック(人海戦術)と呼ばれ、自分が死の危険にさらされても攻撃を強行する勇猛果敢な士気の高さで知られていた。愛国心に熱狂した解放軍兵士たちは、朝鮮戦争で近代的な武装の連合軍の機関銃陣地に身をさらして突撃を繰り返し、攻撃を成功させたものです」
ところが、今の人民解放軍にそうした戦術を強いることはできなくなった、とこう続ける。
「その大きな理由は70年代の末に実施された『一人っ子政策』です。今や、解放軍の現役兵士たちの多くは一人っ子。戦争によって息子が死ねば、その両親や祖父母は先祖の祭祀が絶えてしまうことになる。これは儒教的価値観の中国人が最も嫌がることです。また、一人っ子政策は現在では緩和されていますが、今度は農村部などの子だくさんの家の子供から口減らしのような形で兵士になるケースも出てきた」(南郷氏)
いずれにせよ、中国では徴兵制は取られていても、人口が桁違いに多いので、規定年齢の全員を一斉に軍隊入りさせることなどはできず、実質は志願制に近い。つまるところ士気が非常に低いのだという。ある軍事ジャーナリストが言う。
「今の中国軍兵士には、人海戦術などを用いることなどは絶対にできませんよ。そして表に出ない反逆事件も頻発してます。上官をマシンガンで殺害した事例もありますが、日本ではほとんど報じられないのです。そして、士気が低いことは、こと高度な技術を要求されイロットの技術は自衛隊よりはるかに低く、熟練パイロットと呼べる兵士は皆無と言ってもいいほど。だから、数少ないある程度、実戦で使えるパイロットを、万が一でも尖閣で失いたくないと、幹部が考えているとしても不思議ではありません」
南郷氏もうなずく。
「士気が低いパイロットを最新鋭の戦闘機に乗せて尖閣に出動させれば、それを手土産にアメリカや台湾に亡命してしまうことも考えられますよ」