新井良太は明るく練習をできる選手。バッティング理論などを難しく考えすぎず「こうしたらどうなるだろう」「さっきはこうだったから、こうしてみよう」とスイング一つを見ても、トライしながら練習をこなしています。
そのスタイルは、今成亮太も同じ。明るくキャンプをするという点で、彼らはムードメーカーのような存在です。彼らが盛り上げてくれる分、窮屈になりやすいキャンプが伸び伸びとしたものになります。
伊藤も、キャンプ当初はあまりにストイックにやりすぎる傾向があり、陰にこもってしまうのではないかという心配はありましたが、新井良や今成といった選手とともに練習するうちに、笑う場面が多くなってきたのは、今回のキャンプでの大きな収穫だと感じています。特に伊藤と新井良は、来年が勝負の年。だからこそ、本人たちの練習を見ていても“来年こそは”という必死さがひしひしと伝わってきます。
ここで忘れてはいけないのが、私たちコーチが用意できるのはこれらの環境作りだけであり、それ以上、選手のメンタルに踏み込むことはできません。決して私たちが選手を追い詰めることはせず、選手自身がいかに自分を追い込めるかが鍵となるのです。
そしてもう一人、このキャンプでチーム一の伸びしろを見せたのが森田一成です。彼の特色は試合での存在感。練習中はあまり目立たない森田ですが、16日の練習試合では2安打と期待以上の成果を出してくれました。
これはひとえに、彼に試合勘が備わっているから。関西高校時代に3度の甲子園出場を果たしている彼は、自分がどこで結果を出さなくてはいけないか、自分は何をすべきなのかをよく理解しています。
しかも彼はキャンプ中、私に「阪神の4番を打ちたい」と言うほど、阪神の大砲に対しての自覚を持つようになりました。
それは北條史也にも言えます。彼もまた高校時代、光星学院の4番として活躍したスラッガー。甲子園大会の決勝では、当時、大阪桐蔭のエースであった藤浪晋太郎とも勝負をするなど、高校生としての経験は申し分のないもの。
そのかいあって、試合では慌てることなく投手と対戦できます。バッターボックスでの落ち着きは一軍の打者には必須ですからね。
森田、北條はその条件をすでにクリアしている選手なのです。
また、以前も触れた緒方凌介も将来的に考えれば、まれに見る逸材です。彼はPL学園、東洋大学で4番を打ってきただけに対応も柔軟。おまけに打撃のパワーだけではなく、足の速さや強肩もあり、ちょうど元ヤクルトの青木宣親のようなタイプを目指せる打者。
しかし、不安要素もあります。それが大学時代に痛めた右膝の状態。緒方自身は「大丈夫です」と答えていますが、ケガの再発はまだまだ不安要素として残っています。
そんな彼が今回のキャンプを乗り切ったことは、本人にとって大きな自信となるはず。そういった意味でも、今年の秋季キャンプは実りの大きなものだったと言えます。