ナマ中継の様子を再現しよう。
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥」
冒頭、A子さんの荒い息遣いが聞こえる。画面にはしゃがみ込んだ赤いスウェットパンツの膝部分が映っていた。そして、ゆっくり立ち上がると、踊り場に置いたごみ箱の上に右足、左足の順番で乗る。一瞬、スマートフォンのカメラがマンションの下を向くと、A子さんはためらうようにごみ箱から降りた。
「はぁ、はぁ、怖いよ、怖いよ、怖いよ」
何度も小さい声でつぶやきながら、その場にしゃがみ込む。先ほどよりもA子さんの息遣いは荒く、早くなっていくのがわかる。それほどまで生に執着しているにもかかわらず、なぜ死を選択しようとしているのか。ここまでの映像からはうかがい知れない。だが、内面の動揺は、画面からにじみ出ていた。
踊り場や膝元など、ピントが合わない状態でブレブレの状態が続く。
そして1分ほどしゃがみ込んだあと、意を決したかのように勢いよく立ち上がると、再びごみ箱の上に乗った。カメラはマンションの下を映す。かなりの高さであることがわかる。と、その時、画面がくるくると回り、落下しながら、マンションの壁や、玄関前のコンクリートが映し出された。そして──、
「んんん、うぁー」
女子生徒の短い叫びが聞こえた直後に、「バーン」という叩きつけられたような音が響き渡ったのだ。
落下したスマートフォンはまだ動画中継を続けていたが、そこにA子さんの姿は映っていなかった。
このあと、踊り場の映像が延々と映し出されて、この動画は終了する。
まるで何かに取りつかれたかのように、マンションから飛び降りたA子さんだが、彼女が通う中学校の生徒たちは、前兆らしき言動はまったくなかったと口をそろえる。
「A子は中学3年になってから、学校を休むようになりましたけど、特にいじめられたり、嫌われてもいなかったです。学校にいる時は、静かにしていて、話しかけずに放っておいてほしいっていう態度でした」(同級生の男子生徒)
とはいえ、友人となじめずに孤独にさいなまれていたというわけではなかった。自殺の前日には、親友とのショッピングも楽しんでいた。
「A子と仲のよかった同級生がいるんですけど、誕生日が近い友達がいたので、一緒にプレゼントを選びに行ったみたい。その時には悩んでいるそぶりも見せなかったので、『いきなり自殺した理由がわからない』と、寂しそうな顔をしていました」(同級生の女子生徒)
しかし、A子さんには家族や友人も知らない“もう一つの顔”があった。一般人がインターネット上で、ダンスやトークを配信して人気者となる、いわゆる“ネットアイドル”だったのだ。