芸能

“日本のリバプール”博多スーパースター列伝<第3回>長渕剛(3)

20140123q

〈悪夢の武道館〉を最後に、長渕は残りのツアーをキャンセルした。ギターとコーラスを担当する浜田は、その日を鮮明に憶えていた。

「長渕をサポートするのが僕の仕事。彼の声が出ないなら、僕がすべて歌ってやろうかと思った」

 北九州市出身の浜田はヤマハのポプコンでグランプリを獲り、74年に「いつのまにか君は」をヒットさせていた“先輩”にあたる。その後、長渕がロック志向を強めていった時期に「バックに太い声が欲しい」との希望で指名される。そして82年6月の日比谷野音から本格的にサポートメンバーになった。

「その当時の剛はまだ、バンドスタイルの仕組みがわかっていなかった。だから彼が言いたいことを、僕がミュージシャンたちに通訳する感じだったね」

 ただし、長渕が「自身の目指すエンターテインメント」を自分の言葉で伝えるまで、そう長くはかからなかったという。また通常は「コーラス」と称されるパートだが、長渕は浜田に対し、その呼び名を嫌った。

「コーラスみたいに決まり切った形じゃなく『サイドボーカル』と考えてくれた。だから雰囲気だけ剛から聞いて、あとは僕の自由にやっていいって形だったね」

 ツアーをキャンセルした86年は、見ていて痛々しいほどに責任を1人で抱え込んでいた。浜田は「天才ってああいうことかな」と思わずにいられなかった。

 やがて長渕は肉体改造を成功させ、強靭なボーカルも取り戻す。浜田も20年にわたってパートナーの座につくが、そのファイナルであり、集大成となったのが04年8月21日に行われた「桜島オールナイトコンサート」だった。

 長渕が生まれ育った鹿児島の地に、全国から7万5000人が集まり、日の出までを共有する。夜明け前に披露された最後の1曲「Captain of the Ship」は30分近い極限のパフォーマンスとなった。

「僕のギターとベースとドラムだけで、剛は『倒れるまでやるぞ!』と叫んで歌い続ける。この1曲をやるために、僕は20年間、剛と一緒にステージをやったんだなって思ったね」

 大会場でのリハーサルでは浜田にステージで歌わせる。その間に長渕は客席を走り回りながら、聴こえづらい場所がないか音響をチェックするのが常だったという。

 それほど真摯に自身のステージと向き合った結果、男たちに「アニキ!」と拳を突き上げさせるカリスマ像になった──浜田はそう実感して若い世代にバトンタッチした。

 あの桜島の熱い夏から今年で10年が経つ。長渕の思いは、東日本大震災などで、より強く「歌が伝えられるもの」に昇華されている。

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
長与千種がカミングアウト「恋愛禁止」を破ったクラッシュ・ギャルズ時代「夜のリング外試合」の相手
2
暴投王・藤浪晋太郎「もうメジャーも日本も難しい」窮地で「バウアーのようにメキシコへ行け」
3
日本と同じ「ずんぐり体型」アルプス山脈地帯に潜む「ヨーロッパ版ツチノコ」は猛毒を吐く
4
侍ジャパン「プレミア12」で際立った広島・坂倉将吾とロッテ・佐藤都志也「決定的な捕手力の差」
5
怒り爆発の高木豊「愚の骨頂!クライマックスなんかもうやめろ!」高田繁に猛反論