「う、ううん…って、ここどこやねん! はっ、病院?」
気がついたのは、救急病院のベッド。何があったのかすらわからない自分。電車に乗っていたはずが…まるで狐につままれたような感覚でした。
と、あたりを見ると腕につながる点滴、ピッピッと規則的に点滅する心電図。時計は、午前1時を指している。あれ、俺の携帯がない、財布がない…何もかにも見当たらないじゃないか。ひょっとして、酔っ払った寝込みを襲われた…のか?
ナースコールを押して、かくかくしかじか事情を話すと、看護師さんが運ばれてきた時の状況をじっと見ていてくれたようで、筆者が何をしたのかを懇々と説明してくれました。
何でも、駆けつけた妻に「自分は大丈夫だから、財布とスマホ、靴と上着は持って帰ってくれ」「いいから持って帰って、後生だから」「自分の名前はわからないけど、大丈夫」としたうえで、“何もないところから頑張る”などと、意味のわからないことをほざいていたらしいんですね。まったくのポンコツ、マルチ商法にハマッて押入れが健康食だらけになって一家離散するくらいのポンコツぶりです。
それからは一睡もできない状態で朝を迎え、ポケットに手を突っ込むと、所持金1102円。やばっ! これ、大阪から京都に帰れんのか?
病院の支払いは妻がしてくれていたようで、そのまま衣装ケースに入っていたイベント用のスーツを着て帰宅することにしました。しかし、靴がない!そこで、病院からお借りした便所サンダルを履いて帰ることに…。
おいおい、なんだ、この上下のギクシャク感。こんなもん、法律違反のクスリでもやってると思われて職質されるんじゃないのか?
しかし、仕方がありません。とにかく大阪環状線に乗り数駅、それからは阪急電車に乗り換えて、梅田から京都まで戻ります。
はっ、腹減ったなぁ~。ひもじい思いを胸に飛び込んだのは、ホームの駅そば。
所持金残り522円なら、食すことができるのは「かけうどん」に天かす(※無料)とネギ(※無料)をたっぷりとトッピングするくらい。隣の冴えないサラリーマンなんて、肉うどんに卵トッピングですよ!さらにいなり寿司2貫付き。どんだけ贅沢するんだよ、コイツ…女房でも質に入れたのかよ!って毒づきながら啜る弱ゴシ駅うどん。おつゆを完飲し、金には困っていない顔つきで颯爽とホームで待つ京都河原町行きに飛び乗りました。
はてさて、所持金残り272円の45歳男性。無事、家にたどり着くのか?
(この項続く)=不定期連載=
丸野裕行(まるの・ひろゆき):ライター、脚本家、特殊犯罪アナリスト。1976年、京都市生まれ。フリーライターを生業としながら、求人広告制作会社のコピーライター、各企業の宣伝広告などを担当。ポータルサイト・ガジェット通信では連載を持ち、独自の視点の記事を執筆するほか、原作者として遠藤憲一主演の映画「木屋町DARUMA」を製作。文化人タレントとしてテレビなどにも度々出演している。