それからは自宅で原稿を執筆して、なんとかこの体調の悪さをやり過ごそうとしていたんですが、全ての感覚が遠い。パソコンを打つ手も「カイジ」の鉄骨の上に立ったゼッケン12番の中山みたいにブルブルと震え、誤打ちばかり…。寝ようが起きようが何かがおかしい。
おまけに深夜に2階で就寝していると、1階から物音が…。誰かが皿を割ったり、トイレの水を流したり、風呂のシャワーを出しっぱなしにしたりしている。何だか、すごく怖い。
ここまでくると、山本晋也監督的に「ほとんどビョーキ」状態。ほとんどではなく、病気だな、これは…と思ったのは翌朝のトイレに駆け込んだ時でした。
おかしな便意に襲われたのですが、用を足してから便器を見ると、ラー油が大量に浮いている。
「王将」なんてとんとご無沙汰なのに、はて、なぜこんなにラー油が? 後でわかったことですが、膵臓と肝臓が極度に痛めつけられると食事の油分が分解できずにそのまま排出されるとのこと。
こりゃマズいな…なんて思っている矢先に記憶がなくなり、昏睡状態になってしまいました。それから、数時間の時が流れ、子供たちが小学校から帰宅してきたチャイムで気がつけば、油まみれの便と小便を漏らしたまま、リビングに突っ伏している。「ちょっと待っててね」と立ち上がろうとするわけですが、その力もない。無理に体を起こそうとして倒れた拍子にテレビ台を破損し、腰を強打してしまいました。
自分の体が自分では操縦できなくなっているのに気がつき、仕事に出ている妻に置手紙をしたためます。【すいません、晩御飯を作れません。上で横になっています。起こさないでください】と、まるで借金で蒸発した伴侶のような「疲れました、探さないでください」まがいの文言を残し、階上の寝室へ…。ちなみに後日、その手紙を読み返すと【すません、ばんごはんを横がおっこす】となっていました。
布団に身を横たえ、激しい便意。しかし、どうすることもできません。何もできない状態の中、誰かが入室してきました。子供たちか、帰宅してきた妻か…。視線に入ってきたのは、大きな顔の女。そっと枕元に立つと、こちらをじっと見つめています。
ルーシー・リューのごとく親の仇みたいにエラの張った女は、千手観音のような身振り手振りで、何かを伝えてきます。絶対に幻覚だ。過度のアルコールは恐ろしいものだと、骨の髄まで知らしめられた気がしましたね。自宅療養では無理だ…。観葉植物が話しかけてきた翌朝、決意した筆者は、救急で病院へ足を向けました。
ですが、そこからはさらなる地獄が待ち受けることになったわけです…。
丸野裕行(まるの・ひろゆき):ライター、脚本家、特殊犯罪アナリスト。1976年、京都市生まれ。フリーライターを生業としながら、求人広告制作会社のコピーライター、各企業の宣伝広告などを担当。ポータルサイト・ガジェット通信では連載を持ち、独自の視点の記事を執筆するほか、原作者として遠藤憲一主演の映画「木屋町DARUMA」を製作。文化人タレントとしてテレビなどにもたびたび出演している。