プロ野球のレギュラー争いもまた熱戦です。これが掲載される頃には、阪神もベテランや若手が入り乱れてのキャンプに突入しているのです。
先日も、巨人の高橋由伸らと行っていた沖縄キャンプから戻ってきた伊藤隼太から電話があり、彼のバッティングを見る機会がありました。
彼のフォームでまず感じたのは、その仕上がりのよさ。秋季キャンプから続けていた肩を使った、レベルでのスイングがしっかり実践できていたのは、コーチとしてもうれしい点です。しかも、スイング自体も程よく力が抜けたものになっていて、課題だったスイングの際に首が倒れる悪癖も修正されていて、一安心しました。
そんな若虎の中でも成長著しいのが緒方凌介です。名前こそ伊藤隼太に比べ、まだまだ知られていませんが、去年の秋季キャンプで最もその存在が光った選手でした。
彼はPL学園、東洋大学という野球の名門でクリーンナップを打ってきた選手です。それだけにスイングの速さは目を引かれるものがあります。スイングが速いということは、ボールを強く叩けることを意味しています。
また、バットの扱いに慣れているのも彼の特徴の一つです。「打球の高さをもう少し抑えろ」とひと言言えば、すぐにそのとおりにやってのけるのも、彼の才能でしょう。
秋季キャンプの緒方はボールを遠くに飛ばしたいという意識があって、フォームもスタンスを広く取るような形になっていました。これでは体の回転もスムーズではなく、ボールを捉えるべき目線もブレてしまいます。
そこで、スタンスをやや狭くして、ステップを小さくさせるような指導を行いました。そのかいあって、今まで以上にスイングの際に起きる体のブレがなくなり、それと同時に、目線が上下に揺れることもなくなりました。ステップを小さくし、体の軸と目の高さが固定できたことで、しっかり目でボールを捉えられ、打ち損じも少なくなったわけです。
昨年11月26日から台湾で開催されたウインターリーグでは、その成果が十分に発揮されました。21試合で65打数24安打4打点。打率3割6分9厘、盗塁11と想像以上の成績をあげることができたのです。この結果は、彼にとって自信につながっているはずです。
しかし、私が特に収穫だと感じたのは、彼が台湾で本塁打を1本も打たなかったことです。ここで下手に1本、2本と打ってしまえば、彼自身が自分の目指す野球の方向性がわからなくなってしまう危険性がありました。今回の「本塁打0本」で、彼にとって自分のすべき野球がはっきりと見えたことは、指導する者として非常にありがたい要素でした。
今年、痛めている右膝のケガさえ払拭できれば、彼がペナントレースでブレイクする可能性は大いにあるでしょう。