冷凍食品大手マルハニチロの農薬混入事件の容疑者逮捕から1週間余り。当初から「アニメコスプレ趣味」「カブトムシ販売副業」といった容疑者の謎の生活が一斉に報じられたが、これらも実はほんの一面にすぎなかった。あらためて現地で取材すると、容疑者のさらなる“変態オジサン”証言が続出して──。
「私の友人の叔父が夏にホームセンターにカブトムシを買いに行ったら、売り切れていたんです。そしたら後ろから、『欲しいのか?』と声をかけられ、振り向くとニヤニヤと男が笑みを浮かべていました。叔父がうなずくと『だったら家に来い』と言って、男はスクーターに乗って車に乗った叔父を先導して家まで案内しました。洋服ケースみたいな箱の中にはいっぱいカブトムシがいて、値段は正確には覚えてないそうですが1匹数百円で、まとめ買いしたと言っていました」
群馬県太田市内の女性が語る、この「男」こそ、冷凍食品大手マルハニチロの子会社「アクリフーズ」群馬工場の冷凍食品に農薬を混入させたとして、偽計業務妨害の疑いで逮捕された工場契約社員・阿部利樹容疑者(49)である。
最大で基準値の260万倍という高濃度の農薬「マラチオン」が同社の冷凍食品から検出され、昨年から全国で約3000人の消費者が下痢や嘔吐などの症状を訴えた。すぐに約640万袋もの商品の自主回収に乗り出したものの、回収費用に35億円を計上するハメになってしまったのだ。
昨年末に農薬混入事件が発覚してから、1月25日に逮捕されるまでの約1カ月。群馬県警の捜査線上には、早い段階から阿部容疑者の名前が浮かんでいた。捜査関係者が“決め手”をこう語る。
「農薬が混入された製品の製造日が阿部容疑者の出勤日と一致していました。また、作業着からだけではなく、会社側から提出を受けた製造ライン専用の作業靴の鑑定では、約300人が働く従業員の中で、ただ1人だけ阿部容疑者の靴底からマラチオンが検出されました」
農薬が混入された状況から外部の人間の犯行とは考えにくいため、工場の作業員たちの間でも“犯人探し”が始まり、「阿部容疑者に疑惑の目が向けられていた」と、ある従業員の男性は言う。
「阿部さんは工場で目立つ人だったので、もしかしたら‥‥っていう感じで疑われていた。機嫌がいい時は明るくて気さくにしゃべりかけてきますが、気性が荒くて社員とケンカすることもあった。トイレに行ったら30分くらい帰ってこなくて、社員から『班が迷惑する』と注意されたり、別の上司とケンカした時は、『次はクビだぞ! 契約しないからな』と言われると、『ふざけんなよ』と激高してロッカーを蹴っていたこともあります」
さらに別の従業員男性はこんな疑問を投げかけた。
「『クラスト』と呼ばれるピザ生地の製造を阿部さんは担当していた。休憩時間になると持ち場を離れて、農薬が検出されたコロッケやフライなどの製造ラインに現れて、よくつまみ食いをしていた。それなのに、混入事件が発覚する直前の、昨年11月くらいから他のラインには来なくなったんです‥‥」
阿部容疑者も自分に捜査の手が伸びていることに気づいたのか、銀行通帳を持ち出して1月14日から行方をくらませて“逃走”するが、埼玉県幸手市内で発見され、1月25日に逮捕されたのである。
阿部容疑者の実家を訪ねると、50歳間近の息子の犯行に、母親はショックのあまり体調を崩して寝込んでしまい、記者の質問にも、もはや答えることはなかった。