吉祥寺駅前で、小泉氏はこう語る。
「日本は現在(原発は)ゼロでやっているじゃないですか! この選挙で戦っているのは、原発を基幹エネルギーとしようとする勢力と、『いや原発ゼロで自然とともに生きようよ』と、自然を支点にモノを発展させようというグループが、今激しいせめぎ合いをやっている」
かつて小泉氏は、自身の改革に反対する者を「抵抗勢力」と名付け、対立構造を打ち出すことで有権者の心を引き付けてきた。この発言にはまばらな拍手が起こったが、政治部記者が言う。
「原発を軸に『抵抗勢力』を作る戦略でしょう。しかし、都知事選で『原発』は響きません。ネットで観ることのできる小泉氏の演説には、大きな拍手が聞こえますが、あれは、広範囲から音を拾えるマイクを群衆のど真ん中に置いているからです。まばらな拍手や歓声でも放送される時は大拍手や大歓声になるのです」
ところで、今回、小泉氏が「抵抗勢力」として“名指し”した人物がいる。そこには、小泉氏が都知事選に挑むきっかけともなった事件があったのだ。三鷹駅前で小泉氏が語ったセリフは、それを表していた。
「細川さんが立候補する、小泉が応援しそうだ、という状況になったら『東京オリンピックは世界の祭典なんだ、原発ゼロなんて無責任なことを言うな、愚かなことを言うな』という批判が出てきた。しかし、よく調べてみると、そういう方々は“東京招致オリンピック委員会”の有力なメンバーが多いんですね」
もちろん、正式名称は「東京オリンピック招致委員会」なのだが、この一節は、このあとの吉祥寺では語られてはいない。なぜ、小泉氏はここで招致委員会を名指ししたのか。ある永田町関係者が語る。
「昨年12月17日のことです。東京にある日本料理屋で、安倍さんと小泉さん、それと森(喜朗=76=)さんが会合を開きました。脱原発について意見を戦わせたのかと思いましたが、小泉さんは記者団に『いや、原発の話はしなかった』と答えました」
実はこの席で、小泉氏は反原発の話をしようと意気込んでいたという。ところが、森氏が席に着くなり、
「純ちゃんいいじゃないか、原発ナシ、ナシ」
と言い、話の腰を真っ二つに折ったのだという。前出・永田町関係者が語る。
「その後、森さんは『俺が(反原発を)収めた』と得意気になって周囲に吹聴したのですが、話を遮られた小泉さんは大激怒していた。結果、森さんのどうでもいい根回しで、小泉さんは都知事選を皮切りに、反原発を政治問題にしていく腹をくくりました」
森氏といえば五輪招致に関わり、1月に東京五輪組織委員長に就いたばかりである。小泉氏が腹にためた怒りなど知るよしもない森氏は、1月18日のテレビ東京でこう語り、小泉氏の怒りに油を注いだ。
「6年先の五輪のためにはもっと電気が必要だ。今から(原発)ゼロなら、五輪を返上するしかないな」
小泉氏が名指しした「抵抗勢力」が森氏であることは明らかである。