テリー ひとりさんはテレビでも活躍してるけど、映画を撮ったり、小説を書いたり、多才でしょう。その中で、たけしさんが今回の作品を評価してくれたのは、今後の創作活動の大きな財産になるね。
ひとり そうですね。ただ、さすがにちょっと燃え尽きちゃった感じはありますけどね。それこそ「浅草キッド」に対する憧れは、もう何十年もありましたから。
テリー テレビタレントと創作のバランスって、どう考えてるの?
ひとり 僕はもう当然、いただく仕事は頑張る前提なんですけど。今までテレビに必死にしがみついてきたのでそろそろいいかなとは思ってますね。「仕事がなくなったらなくなったでしょうがないか」っていうスタンスで、もっと映画も撮りたいし、もっと小説も書きたいし、自分のやりたいことを優先してやっていこうかなと。脚本や小説を書くのは元手もいらないし、いくらでも自分のライフワークとしてやっていけるので。
テリー 正直、テレビに出てると、たくさんお金も入ってくるし、「今日は良かったな、楽しかったな」で終わっちゃうじゃない。そういう状態で創作に対するモチベーションを保つのは大変じゃない?
ひとり たしかに現場は毎日楽しいし、お金もいただいて、何不自由ないんですよね。でも、やっぱり「こんなに毎日、心地いい生活を送ってていいのか」っていうのはあるんですよ。でも、創作に向かう時ってすごく苦しいし、孤独だし、ほとんどお金にもならないんですよね。小説なんか1冊目は売れたんですけど、2冊目なんか全然売れなくて、時給換算したら200円もないんじゃないかぐらいの感じですから。
テリー わかる。ほんとにそうなんだよね。
ひとり でも、やって良かったと思うし、自分の人生の大きな糧になってるなと。だから人生の修行として、ずっと創作に関わらなきゃいけないと思うんですけど、あの苦しみだけは、何回やっても慣れないですね。
テリー 何がいちばん苦しいの。
ひとり テリーさんもご存知だと思いますけど、とにかく答えがないですよね。例えば今、漫画の原作を考えてるんですけど、漫画って4コマもあるし、ラブコメもSFも何でもできるじゃないですか。何でもできるって、こんなに苦しいことはないですよ。
テリー 選択肢が無限だからね。そういう時の指針って何なの?
ひとり 僕が何か作る時は「自分が見たいもの」を大事にしてますね。でも、もう自分が何を見たいのかわからないんですよ。だから結局、書いたものも「ほんとにこれでいいのかな」って思っちゃいますよね。
テリー そうだよなぁ。
ひとり で、それだって削除ボタンを1個押せばなくなっちゃうわけで、またゼロから書くっていう選択肢だってあるわけじゃないですか。ほんとに出口のない作業で、すごくツラいですよね。それだけに「これだ!」っていうひらめきみたいなものが出てきた時は、何物にも代えがたいんですけど。
テリー まぁ、クリエイターは全員そのためにやってるようなものだよね。
ひとり この前、山田洋次監督にお会いした時におっしゃってたのが、「男はつらいよ」の映画第1作目が完成した時、「ああ、俺はとんでもない駄作を作ってしまった」と思われたらしいんですよ。あんなギネスに載るぐらいのすごいシリーズの映画でも最初はそうなんだなぁと。ほんとに作品がどうなるかって、世に出るまで、まったくわからないんですよね。