テリー 小椋さんは奥さんのことを、相当愛されてますよね。
小椋 そうですね。僕自身を除けば、やっぱりいちばん大切なのは家内ですね。
テリー それなのに今は別居中という。
小椋 胃ガンの手術を終えた、57歳からです。
テリー また体力的に最もキツい時に別居するのがすごいですよね。僕なんかもかみさんとは別居してるような状態ですけど、僕の場合はもっと不純で、女の子と会いたいからちょっと邪魔だなって(笑)。
小椋 いや、それもいい理由じゃないですか。僕の場合はね、僕の顔って幼い頃から相当醜かったみたいで、近所中から「変な顔した子だね」とか、親からも「おもしろい顔してるね」って言われたんですよ。でもね、とても可愛がってくれたおばあちゃんが「この子はすごくいい顔をしてる。これは一生食うに困らない唇だよ」って言ってくれたんですよ。それで「僕は一生食うに困らない人間なんだ」って思い込んじゃった。
テリー いいですね。
小椋 ただ、そのせいか衣食住ですね、生活の非常にプリミティブな部分に一切関心がないんですよ。考えてみたら、学生時代はずっとおふくろとか(生家の料亭の)女中さんの世話になってるし、大学を卒業して2年で結婚したから、家内の世話もあって、確かに今まで食うに困らない人生をずっと歩いてるんですよ。
テリー ずっと恵まれていたということですね。
小椋 そうです。それで「ちょっと待てよ、俺、人間の歌を作っていながら、人間の非常にプリミティブな生活の部分にかかわらないまま来ちゃってるな。これはいけないな」と50歳を過ぎてから思い始めまして。まずは自分で買い物をし、飯を作り、暮らしを立てるということを自分でやらなきゃいけないなと。それで独り立ちしようと思って、家を出たんですけどね。
テリー なるほど、そういうことか。
小椋 さすがに家内には「何で57歳になって捨てられなきゃいけないんだ」って泣かれました。
テリー 当たり前ですよ。
小椋 僕も泣きましたよ。「何でこの年になって、いちばん大事な家内を捨てて家を出なきゃいけないんだ」って、自分を責めてね。
テリー でも、歌を作る以上は避けては通れなかった。
小椋 本物を作らなきゃダメだという思いですね。
テリー 別居って、今はどういう状態なんですか。
小椋 今は1人でいることがすごく居心地がよくなっちゃってね。月曜から金曜の午前中まで1人暮らしで、金曜の夜から月曜の朝までは家内と一緒です。
テリー 図々しい男ですね(笑)。
小椋 いやいや。家内もすごく居心地がいいと言ってます。
テリー 夫婦は週2日ぐらい一緒にいるのがちょうどいいって、よく言いますよね。うちのかみさんも「もう居場所さえわかってりゃいい」って言ってます。
小椋 最初はね、飯どうするんだっていう話になって、家政婦さんを頼んだり、お料理の先生を呼んで教わったりしてたんですけど、やっぱりダメですね。やってみたけど、しんどくて、しんどくて。それで今は家内が1日2食分、必ず朝ここ(事務所)へ届けてくれるんです。
テリー それ、別居じゃないですよ(笑)。
小椋 だから食事には困ってないですね。
テリー これ、ひどい話だな(笑)。でも、すごく素敵な関係ですよね。