フリーアナの古舘伊知郎といえば、テレビ朝日のアナウンサー時代、1970年代後半から80年代初頭にかけて担当したプロレス中継での名実況が思い起こされる。
1984年に「週刊少年マガジン」で連載された「異能戦士」に、当時、古舘に心酔していたとされる作者の小林よしのり氏が、古舘そっくりのキャラを頻繁に登場させた。これがプロレスファン以外にも知られるきっかけとなり社会現象にまで発展したのだが、一方でその実況については、“「あるがまま」を伝えればよく、面白おかしくする必要はない”と正統派アナの上司から叱責も受けていたという。
千原ジュニアのYouTubeチャンネルの、4月8日付け投稿回に出演した古舘が、当時をこう振り返っている。
まずは人気の覆面プロレスラー・タイガーマスク。その動きがあまりに華麗だったことから、古舘が「タイガーマスクお得意の四次元殺法出た!」と実況したところ、「ここは三次元なんだ! この現実世界は!」などと、その上司が激怒。
またあるときは、125キロあった体重を100キロにまで絞ったアントニオ猪木が、ある試合でガウンを脱ぎ美しい肉体を披露した際、「私がいにしえの頃に、ずーっと東京の下町で眺めていた、曇りガラス越しのママレモンのシルエットにも似て…」と絶叫すれば、「お前な、ママレモンじゃないんだよ、猪木の体は!」とまた激怒…といった具合だったという。
84年にフリーに転身した古舘は、当時の不満もそれにより爆発する機会を得たことで、むしろ「良かった」と回顧している。プロレス実況の舞台裏を知る、実に興味深い動画だった。
(ユーチューブライター・所ひで)