俳優・渡辺裕之の訃報が届いたのは5月3日。渡辺といえば「愛の嵐」などの昼メロや、哀川翔や竹内力らと並ぶVシネ俳優として知られるが、なんといっても印象に残るのは、リポビタンDの「ファイトー! いっぱーつ!」のCMだろう。
「筋肉俳優」武田真治や「筋肉ミュージシャン」西川貴教などが出てくるずっと以前から、「リポD」のCMは筋肉推しでやってきた。
大正製薬のサイトには「リポビタン広告の歴史」コーナーがある。そこでは「過去に放送されたTVCM」が閲覧でき、「1986年 勝野洋&渡辺裕之『頂上』篇」と「1993年 渡辺裕之&西村和彦『つり橋』篇」が見られるのだ。
一歩間違えれば海に真っ逆さまの断崖絶壁をクライミングする勝野と渡辺。切れそうになるつり橋を渾身の力でくい止める渡辺。CMでここまでカラダを張るかというスリリングな展開。これこそが「リポD」で、渡辺はその代表的なキャラクターだった。
リポビタンDが発売されたのは1962年のこと。初代CMキャラクターは当時、読売巨人軍のエンディ宮本(宮本敏雄)、2代目が王貞治選手、3代目宝田明、4代目高橋英樹。そして、勝野洋以降、この筋肉俳優シリーズが始まり、宮内淳、真田広之、渡辺裕之、野村宏伸、倉田てつを、西村和彦、宍戸開、ケイン・コスギ、滝川英治、山口達也、三浦貴大まで続いた。
こうしてみれば、歴代キャラクターは最近、見かけない顔ばかり。ケイン・コスギなどは今やゲーム実況でフィーチャーされ、筋肉の持ち腐れ。「ファイトー!いっぱーつ!」が聞かれなくなったはずだ。
2016年からは三浦知良、大谷翔平、ラグビー日本代表とアスリート篇になり、現在のキャラクターは木村拓哉だ。「人それぞれいろんなファイトがある。頑張ってるかどうかなんて他人が決めるもんじゃない。だから自分の歩幅で歩き出そうぜ」とひとり語りで悦に入る。キャッチコピーも「一歩を、一緒に。」と穏やか。「一歩を、一緒に。」と言いながら、当のキムタクの一歩が階段6段分くらいと思いっきり大きいところが、いかにも負けず嫌いのキムタクらしくて笑えるが…。
(堀江南)