今も昔も、憧れの“スター”にお縄がかけられる姿はファンに衝撃を与える。中でも、特に多いのが薬物での逮捕だ。数多くのスターたちが薬物にからめ取られ、落ちていく‥‥。その時「現場」では何が起こっていたのか? 関係者の証言で振り返る。
1977年、芸能界に激震が走った。錚々たるスターたちが芋づる式に薬物で逮捕されていったのだ。中でも取材陣たちを驚愕させたのが、今現在、芸能界では“大御所”と呼ばれる歌手Aのケースだ。ベテラン芸能記者がこう証言する。
「逮捕の時、捜査員が大挙して部屋に踏み込んだのですが、皆がア然とした。大量のセクシー下着や、たくさんのカツラがあったからです。カツラに関しては、当然ながらその必要性があったから。下着は自身で着用する用途だったみたいです。これには捜査員も苦笑するしかなかったとか」
もちろん、この歌手Aは身柄を拘束され、取り調べを受けることになったが、こんな話が捜査員の間で囁かれていたという。
「初日はよかったのですが2日目以降は臭うんです。カツラが蒸れて(笑)。当然、身体チェックはしているのですが、それで問題なければ容疑者にカツラの着用を禁じることもできない。Aは慣れているのか、あまり気にしていなかったようですが、取り調べる側は閉口したようですよ」
ちなみにこの77年、薬物で逮捕された芸能人には、岩城滉一(71)、ジョー山中(享年64)、桑名正博(享年59)、上田正樹(72)などのロック系スターや、人気女性歌手だった内藤やす子(71)、にしきのあきら(現錦野旦・73)などがいる。その中で特に世間を驚かせたのは、歌手・タレントとして人気絶頂にあった研ナオコ(68)の大麻取締法違反での逮捕だった。元週刊誌芸能担当記者が話す。
「その頃『カックラキン大放送!!』(日テレ系)という超人気番組があり、研ナオコは新御三家と呼ばれた野口五郎や坂上二郎とともにメインキャストを務めていた。それだけに業界に与えた影響は大きく、後に所属事務所の社長とともに涙の謝罪会見を開き、話題になりました」
そんな彼女の逮捕時に関する裏話がある。元週刊誌記者が続ける。
「今では考えられないことですが、ネタをつかんでいれば、逮捕の瞬間も立ち会うことができた。(逮捕時の)研ナオコの焦燥とした表情をスクープできたのも、そんな捜査当局側の仲間意識があったからです」
コンプライアンスが厳しい現在では考えられないことだが、これもまた昭和時代の芸能界の実態なのだ。
「余談ですが、取り調べの際、大麻の入手先を“うたわなかった”のが、ジョー山中と内藤やす子。なので取り調べはキツく、勾留も長くなった。順法意識でいえば非協力的で許されることではないのですが、芸能界の“仁義”としては、一部で評価する人がいたのも、また事実です」
薬物と大物芸能人という意味では、83年4月に大麻取締法違反で逮捕された萩原健一(享年68)も強烈なインパクトを与えた。後に飲酒運転(84年、業務上過失傷害罪)などで計4度の逮捕を重ね、波乱万丈の芸能人生のトピックとなったわけだが、実はこの最初の逮捕には「予兆」があったという。前出・ベテラン芸能記者が語る。
「ショーケンに薬物の噂が流れたのは、黒澤明監督作品『影武者』(80年、東宝)に出演した時です。合戦のシーンを北海道でロケをした際、スタッフたちは宿を借り切る形で滞在しました。その時、脇役の若手俳優がスタッフに『萩原さんの部屋から妙なニオイがしている』と。大麻を吸引する際は甘いような独特な強い香りがしますからね。実際、ショーケンが部屋を出たあと中に入ったスタッフによれば、まだニオイが強く残っていた。ですが準主演級の大スター。それに大麻を吸引していた証拠はないので、それ以上、追及できなかったようです。私は当時、スタッフからその話を聞いたのですが、どうしても確証が得られず、記事にはできませんでした」
萩原の大麻使用疑惑は、それから3年後の逮捕で裏付けられ、結果的にスクープを逃したことになったわけだが、確たる証拠がなければ報道できないのは今も昔も変わらない。
一般人が携帯カメラを持ち、SNSで気軽に投稿できる現代とは異なり、昭和の芸能界は芸能人、そしてそこに付随するマスコミとの間で、ギリギリの“スキャンダル攻防戦”が繰り広げられていたのだ。