6月4日に配信を開始した本連載の〈本編〉では都合22回にわたり、東京都が10年ぶりに公表した「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」の大ウソを暴いた。
今回からはその〈番外編〉として、「大地震が虎の子の資産(戸建てやマンションなどのマイホーム)にもたらすリスク」について、資産防衛のための必須知識やノウハウなども含め、6回程度にわたって詳しく紹介していきたい。
その際、まず参考になるのが、95年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)がもたらした建物被害の実態である。同地震は、都の防災会議が最大被害を見込んでいる都心南部直下地震と同じマグニチュード7.3、最大震度7の内陸型だった。
同地震の建築震災調査委員会などの報告によれば、旧耐震基準の建物(おおむね81年までに建てられた建物)と新耐震基準(おおむね82年以降に建てられた建物)における建物被害の被害別割合はそれぞれ、以下のようなものだった。
[旧耐震基準の建物]
大破以上──約29%
中・小破──約37%
軽微な被害もしくは無被害──約34%
[新耐震基準の建物]
大破以上──約8%
中・小破──約17%
軽微な被害もしくは無被害──約75%
ちなみに、鉄筋コンクリートの建物で言えば、「大破」とは「柱のせん断ひび割れや曲げひび割れなどによって鉄筋が座屈し、耐力壁にも大きなせん断ひび割れが生じて耐力が著しく低下した状態」で、「大破以上」には「倒壊」や「崩壊」も含まれる。
また、「中破」とは「柱にせん断ひび割れや曲げひび割れ、耐力壁にもひび割れが見られるほか、非耐力壁などの非構造体に大きな損傷が見られる状態」、「小破」とは「柱や耐力壁の損傷は軽微だが、非耐力壁や階段などにせん断ひび割れが見られる状態」で、「軽微な被害」とは「柱や耐力壁や非耐力壁の損傷が軽微な状態、もしくはそれらにほとんど損傷がない状態」で、「無被害」とは文字通り「被害がない状態」を指している。
以上の建物被害報告を見ると、旧耐震基準の建物でより甚大な被害が生じていることは一目瞭然。だが、ここで注目すべきは、新耐震基準の建物といえども、約25%、およそ4分の1もの建物が「大破以上」や「中・小破」の被害を受けているという事実である。
この点については、大地震が虎の子の資産にもたらすリスクを正しく理解するための基礎中の基礎知識として、ぜひとも記憶に留めていただきたい。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。