ゆっちゃんは目を腫らしたまま、花を抱えて帰ってきた。
「ジュテ、お花をいっぱい買ってきたよ」
緑色の箱にすっぽり収まったジュテの周りには赤や白、黄色、ピンク、緑の葉を飾り、賑やかになった。目を覚まし、すり寄りながら「ニャーと鳴いておくれ」と思わずにいられない。しかし、ジュテは黙して横を向いたままだ。
棺をリビングの床に置いたまま、時には涙目になりながら、2人で見守った。そのうち弟猫のガトーがやってきてジュテに近づき、においを嗅いでいる。猫なりに、死んだことを確かめているのだろうか。
「お兄ちゃんが死んじゃったよ」
ゆっちゃんの頬を再び、涙が伝う。
お葬式はどうするか。混乱する頭で、どうにか整理してみる。都内にペット霊堂を運営している知り合いがいる。何かの折にはお世話になることもあると思って、一度、霊堂にお邪魔したことがあった。
湾岸沿いにある、5階建ての立派なビルだった。3階に個別納骨堂があり、そこにはいろいろな動物の位牌が所狭しと並んでいた。4階は本堂。ここで葬儀を行う。その上が斎場になっていた。
霊堂のSさんに連絡すると、
「それはお辛いですね。ご愁傷さまでした」
「そちらで火葬にしていただくことは?」
「大丈夫ですよ。葬儀はやりますか」
「そうですね」
「音声ですが、お経を読んでもらうことができます」
この際、なんでもやってあげよう。ジュテを車で連れて行って、その場で火葬してもらう「お立合い葬儀」というプランをお願いすることに。費用は3万円前後だ。
「いつがいいですか。私は留守にしますが、明日でも大丈夫ですよ」
ゆっちゃんに聞く。
「今日と、もう一晩くらいはジュテと一緒にいたいので、その次の日は?」
葬儀は11月3日に決まった。
夜はお酒を飲みながら、ジュテを偲んだ。ジュテのためのお通夜。泣けてきた。
ゆっちゃんは10年前の3月、震災のあった直後、道で出会ったジュテに「うちについて来るか」と言ったら、トコトコと前を歩き出したのを思い出し、泣いている。
この10年は、本当にジュテと一緒に生きてきた日々だった。我が家の生活からジュテを取ったら、いったい何が残るだろうか。ジュテがいなくなった空白を何で埋めたらいいのか、すぐには思い浮かばない。ガトーが時々、ジュテの様子を見に来るのだが、それが癒やし、慰めだった。
知り合いにはLINEでジュテの死を知らせた。ガトーとクールボーイという保護猫の弟たちを連れてきてくれたMさんからは「辛いね。大丈夫?」と返ってきた。
その夜はそばで一緒に過ごそうと、寝室に椅子を2つ並べ、棺を置いて、目が覚めてはジュテに声をかけ、一晩を過ごした。
(峯田淳/コラムニスト)