社会

ウチの猫がガンになりました(32)/ジュテは口を半分開き、澄んだ目のまま息絶えた

 11月1日、早朝4時。末弟のクールボーイがやってきて、口を尖らせてご飯をおねだりする。ジュテを一晩見守って、お腹がすいたのだろうか。6時にはガトーにご飯。その直後、ガトーが変な鳴き声を上げるので、ジュテのいる和室の押入に駆け付けた。

 4時くらいに見た時は光を帯びていたジュテの目が、濁っている気がする。意識も朦朧としているような。ガトーも一緒に見入る。ゆっちゃんは「ガトーが教えてくれたのかな」と消え入りそうな声。

 前日、動物病院が用意してくれた、背中から入れる補液のセットの支払いに出かける。先生は「補液は24時間おきとか、時間をきちっと決めてやった方がいいですよ」とアドバイスしてくれた。

 この日は外せない仕事があり、午後、後ろ髪を引かれる思いで家を後にした。ジュテに何事もないことを祈りつつ。

 ところが…。14時59分にゆっちゃんからのスマホが鳴る。

「ジュテが酸素室を出たがって、トイレに行こうとして、行く前にオシッコをしてしまって」

 慌てて、泣いている声だった。

「オシッコまみれになったので、シャワーで流して、拭いてあげたけど…」

 風邪を引いて容体が悪くなるのでは、と心配している。「すぐ帰るから」と言って、タクシーを飛ばした。

 到着する10分くらい前だった。「ジュテが苦しがっている」と、また泣いている。「もう着くから」。急いで玄関のドアを開けると、「今…」と訴えかけるような顔だった。

 ゆっちゃんからジュテを引き取って、掌で頭を支える。

「体を洗ってあげたら、ヨロヨロと歩き出して和室に行こうとするの。でも、力がなくて前足だけで這うようにしているうちに、ドロッとした胃液のようなものを吐いて…。そのうちヒック、ヒックと苦しそうに息をして」

「苦しがっている」と電話してきた頃、胃液を吐いていたのかもしれない。最後の電話が15時36分。息絶えたのが44分。ほんの2、3分間、間に合わなかったことになる。ここが死に場所と決めた押入の上段に行こうとして、ジュテは息絶えたのだ。

 抱きかかえたジュテの口は半分、開いていた。もしかすると、まだ生きているかもしれないと思い、口元に耳を当ててみる。息は聞こえない。口を閉じてあげると、また開く。そうしているうちに、涙が頬を伝っていた。言葉が出ない。

「ジュテが…」と言うゆっちゃんも、もう言葉が声にならない。

 動転しながら、こんな時にどうすればいいのかわからず、動物病院に思わず電話していた。話をしようとしても、言葉にならない。傍らのゆっちゃんに、スマホを渡していた。

 先生が「まだ生きていることがあるので、心音を聞いて!」と言っている。やってみたが、やはり聞くことはできなかった。

 ついに、ジュテが逝ってしまった。開いている澄んだ目を閉じてあげた。ジュテは病気をしてから顔が小さくなっていたので、我が家にトコトコと歩いてやって来た10年前の時のような、端正で凛々しい面立ちに戻っていた。あの日から、ジュテとの日々が始まり、長い時間を一緒に過ごしたことになる。これから、どう心を整理することができるのだろうか。いや、できないかもしれない。

 ゆっちゃんが、緑色の大きめの空き箱を探してきた。これが棺だ。そこにジュテが使っていたクリーム色の座布団を敷き、左向きに寝かせた。

 棺には人と同じように、お花をいっぱい敷き詰めてあげよう。ゆっちゃんは目を腫らしたまま、棺に入れる花、祭壇に飾る花を買いに出かけた。その間、ジュテと向き合い、ありったけの想いを巡らせた。

(峯田淳/コラムニスト)

カテゴリー: 社会   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
「反大谷翔平」の上原浩治に「直球質問」をぶつけたら返ってきた「絵文字」が…
2
東京ドームで観客半分の「プレミア12」にサッカーファンが「シラケる」挑発バトル
3
なんだこりゃ!岡田将生の電撃結婚を「完全スルー」した「めざましテレビ」の担当は元カノ鈴木唯アナ
4
「メジャー挑戦」佐々木朗希はドジャース入りでなく千賀滉大や前田健太のように孤軍奮闘せよ
5
大谷翔平「MVP受賞映像」で「真美子夫人の妊娠説」が噴出したワケ