11月1日、早朝4時。末弟のクールボーイがやってきて、口を尖らせてご飯をおねだりする。ジュテを一晩見守って、お腹がすいたのだろうか。6時にはガトーにご飯。その直後、ガトーが変な鳴き声を上げるので、ジュテのいる和室の押入に駆け付けた。
4時くらいに見た時は光を帯びていたジュテの目が、濁っている気がする。意識も朦朧としているような。ガトーも一緒に見入る。ゆっちゃんは「ガトーが教えてくれたのかな」と消え入りそうな声。
前日、動物病院が用意してくれた、背中から入れる補液のセットの支払いに出かける。先生は「補液は24時間おきとか、時間をきちっと決めてやった方がいいですよ」とアドバイスしてくれた。
この日は外せない仕事があり、午後、後ろ髪を引かれる思いで家を後にした。ジュテに何事もないことを祈りつつ。
ところが…。14時59分にゆっちゃんからのスマホが鳴る。
「ジュテが酸素室を出たがって、トイレに行こうとして、行く前にオシッコをしてしまって」
慌てて、泣いている声だった。
「オシッコまみれになったので、シャワーで流して、拭いてあげたけど…」
風邪を引いて容体が悪くなるのでは、と心配している。「すぐ帰るから」と言って、タクシーを飛ばした。
到着する10分くらい前だった。「ジュテが苦しがっている」と、また泣いている。「もう着くから」。急いで玄関のドアを開けると、「今…」と訴えかけるような顔だった。
ゆっちゃんからジュテを引き取って、掌で頭を支える。
「体を洗ってあげたら、ヨロヨロと歩き出して和室に行こうとするの。でも、力がなくて前足だけで這うようにしているうちに、ドロッとした胃液のようなものを吐いて…。そのうちヒック、ヒックと苦しそうに息をして」
「苦しがっている」と電話してきた頃、胃液を吐いていたのかもしれない。最後の電話が15時36分。息絶えたのが44分。ほんの2、3分間、間に合わなかったことになる。ここが死に場所と決めた押入の上段に行こうとして、ジュテは息絶えたのだ。
抱きかかえたジュテの口は半分、開いていた。もしかすると、まだ生きているかもしれないと思い、口元に耳を当ててみる。息は聞こえない。口を閉じてあげると、また開く。そうしているうちに、涙が頬を伝っていた。言葉が出ない。
「ジュテが…」と言うゆっちゃんも、もう言葉が声にならない。
動転しながら、こんな時にどうすればいいのかわからず、動物病院に思わず電話していた。話をしようとしても、言葉にならない。傍らのゆっちゃんに、スマホを渡していた。
先生が「まだ生きていることがあるので、心音を聞いて!」と言っている。やってみたが、やはり聞くことはできなかった。
ついに、ジュテが逝ってしまった。開いている澄んだ目を閉じてあげた。ジュテは病気をしてから顔が小さくなっていたので、我が家にトコトコと歩いてやって来た10年前の時のような、端正で凛々しい面立ちに戻っていた。あの日から、ジュテとの日々が始まり、長い時間を一緒に過ごしたことになる。これから、どう心を整理することができるのだろうか。いや、できないかもしれない。
ゆっちゃんが、緑色の大きめの空き箱を探してきた。これが棺だ。そこにジュテが使っていたクリーム色の座布団を敷き、左向きに寝かせた。
棺には人と同じように、お花をいっぱい敷き詰めてあげよう。ゆっちゃんは目を腫らしたまま、棺に入れる花、祭壇に飾る花を買いに出かけた。その間、ジュテと向き合い、ありったけの想いを巡らせた。
(峯田淳/コラムニスト)