我が家で飼っているのはジュテの他に、ガトーとクールボーイの2匹。ジュテは捨て猫か迷い猫だが、他の二匹は保護猫だ。
マンションから近所の戸建てに引っ越し、近くを大きな幹線道路が走っているので、外飼いは危ない。ジュテは以後、完全に家猫になった。マンションに住んでいる時は開けておいた玄関のドアから気ままに出入りしていたジュテにとっては不自由で、生きているのが味気なくなるのではないか。間取りも広くなり、長期の旅行などでポツンと取り残されたら、かわいそうだ。
そんなふうに思っていたので、保護猫活動をやっている旧知のMさんに連絡したところ、すぐに紹介してくれたのだった。最初がガトーで、次にクールボーイ。ガトーは5歳、クールボーイは2歳。3匹ともオスだ。
Mさんは我が家にも時々、猫を見に来たりして親しくしているので、ジュテのことをお知らせした。
「あの猫(こ)が?」
「もう手術とかはできないみたい」
「どんな様子?弱っている感じ?」
「見かけはいつもと変わらないけど」
「病院ではどう言っているの?」
「緩和ケアとか、症状が出たら対処する方法でいきましょう、と」
「今は何か症状は出ているのかしら」
「この前、ちょっとイヤな咳をしていたけど」
「ご飯は食べる?」
「一時はまったく食べてくれなかったけど、最近はなぜか爆食い」
「それならいいわね。食べられるだけ食べさせた方がいいと思う」
Mさんはこれまで、病気の猫もたくさんみてきた。
「ガンになって手術した猫もいたわ。今は猫の医学技術も進んでいるから、手術して元気に回復した猫もいるわよ」
さすがにMさんは情報が豊富だ。
「これからは、背中から抗生剤の補液を入れてもらうしかないみたい」
「補液を入れるのは自分でもできるのよ」
「えっ?」
「意外と簡単に。背中にチクッと針を刺すコツだけつかめば。猫は背中に空きがあるから痛がらないし。私は何度かやったことがあるわよ」
しかし、ジュテに自分で針を刺すことがイメージできない。
「病院まで連れて行くのは大変だし、いちいち行くのはジュテちゃんにも負担でしょ。できれば、家でやれるといいんだけどね」
「様子を見ながらだね」
この時点では、自分で補液を注入するようになるとは思ってもいなかった。
「ガトーやクールボーイはどんな様子なの?」
「ガトーはジュテのところに行って、時々、体を舐めたりしてる」
「薄々、わかっているのかも。チビちゃんは?」
「クールはヤンチャなだけで、何もわかっていないと思う」
「まだ、子供だものね」
Mさんと知り合ったのは、30年以上前である。猫つながりもあるし、ジュテの話をすることができて、ちょっとだけ気持ちが楽になった。
(峯田淳/コラムニスト)