SNSの普及により、芸能人が直接、自身の言葉や文章で心情を発信出来るようになったことで、その数がめっきり少なくなった記者会見。だが、80年~90年代、ワイドショー全盛時代は、各番組に必ず名物レポーターが存在。彼らが伝える悲喜こもごもの話題に、お茶の間が一喜一憂したものだ。中でも、「恐縮です!」でお馴染みの元祖突撃芸能レポーターが故・梨元勝氏。かくいう私も、芸能記者時代は渋谷区内にあった「梨さん」の事務所に足しげく通い、情報交換させていただいたものである。
そんな梨元氏が、怒りをブチまけた出来事──それが、2001年8月24日に起こった元SMAP稲垣吾郎の逮捕劇を巡るテレビ局の及び腰対応だった。
稲垣は同日、渋谷区道玄坂2丁目の路上にイタリア製高級スポーツカー、マセラッティを駐車。一斉取り締まり中の女性警察官3人に免許書提示を求められたが、それを無視し約30分にわた車内に籠城。突然、車を発進させ、制止しようと車の前に立ちはだかった女性警官に接触、けがを負わせてしまったのである。
当時、渋谷署を取材した際のメモによれば、「女性警官は全治5日。容疑者は数メートル先で停車。公務執行妨害と道路交通法違反の疑いで午後8時45分、現行犯逮捕」とあるが、同日夜10時過ぎ、このニュースが流れると、それこそ上を下への騒ぎになったものだ。
26日、東京地検に送検された稲垣は午後に釈放。同日夜9時、都内のレコード会社で行われた弁護士同伴で記者会見を開いた稲垣はジーンズと白いシャツ姿。詰めかけた200人を超える報道陣を前に「この度は大変みなさまにご迷惑をおかけして深く反省しております」と、反省の言葉は繰り返した。だが、事件の真相についての詳細な説明はなく、さらに、集まった報道陣からも責任を問う質問がなかったとから、翌日には「SMAP稲垣吾郎メンバー、涙の記者会見」などと報じるワイドショーも少なくなかった。
しかも、この日の会見に、突撃レポーターで当時テレビ朝日「やじうまワイド」レギュラーだった梨元氏の姿はなかったのである。関係者を取材すると、稲垣主演のドラマ放送予定を控えたテレ朝の上層部が梨元氏に対し「会見で質問しないように」とクギを刺し、さらには番組内でも「事件についてコメントしないように」と要請。梨元氏が激怒したというのである。さっそく梨元氏を直撃すると、すると、怒りが収まらない様子で、こう語った。
「婦人警官の制止を振り払って、車を発進させ怪我を負わせるなんて、これがアメリカだったら警察官に発砲されてもおかしくない事件。それを人気タレントという理由で腰の引けた報道をするなど、あってはならないこと。猛省を促したいですよ」
ともあれ、テレビ局による「忖度」が、大きくクローズアップされた事件だった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。