A氏の仕事は番号の販売にとどまらない。月々の通話料の徴収だ。
「まずは私の会社が通話料を肩代わりして大元の通信会社に支払う。そして、その明細をもとに詐欺グループに請求をかける。実際は3分7円ですが、そこにマージンを上乗せする。10万円の明細が届いたら、2倍3倍にして請求するんです。よく『高すぎる』と言われましたが、『延滞したら全部止めるよ』と脅せばおとなしく支払ったものです。彼らは『おかわり』と言って、一度騙された被害者に何度も電話をかける。回線を止めるとカモを失うので、払うしかないのです」
細心の注意を払っていたのがその徴収方法だ。
「振り込みはアシがつくからご法度。どこの業者もコインロッカーで取り引きしてますよ。防犯カメラがない場所を選んで現金のやり取りをするんです。一度、アメリカの大統領が来日した際には、都内のロッカーが全て使用禁止になったので、わざわざ埼玉まで出向きました」
料金の徴収と同等、もしくはそれ以上に神経を遣ったのが警察対応だ。取引先や扱う番号の量が膨大になると、詐欺犯罪との接点も増えていった。
「毎日、全国の警察から問い合わせが来るんです。電話だけでなく、直接会社まで来る場合もある。来社するのは本格的な捜査をしている証拠で、対応にも神経を遣いました。驚いたのは、警察の捜査能力の高さ。裁判ではおよそ半年にわたって隠し撮りされた写真を見せられました。コインロッカーからキャッシュを回収する姿までバッチリ撮られていましたね」
すでに逮捕は時間の問題だった。そして「詐欺幇助」の決定的な証拠を押さえられる。
「携帯電話不正利用防止法という法律があって、電話番号を売るには身分証明書の確認が必須。しかし、IP電話にその義務はない。詐欺グループもそれをわかって買うわけです。でも警察の圧力もあって、私のほうで免許証を偽造したのがいけなかった。のちに押収されたパソコンから偽造免許証のデータがゴロゴロ出てきて、言い逃れできなくなってしまったんです」
かくして数年間の刑務所暮らしを送ることとなったA氏。道具屋ビジネスでいくら稼いだのか。率直に尋ねると、「純利益は年間1億円を下らなかった」として次のように語った。
「詐欺犯罪のアガリの2割は通話料と言われる。つまり、被害額10億円の特殊詐欺には2億円の電話料金がつぎ込まれた計算になる。電話屋は売り上げの7割か8割が純利益。現金でやり取りしていたので、税金も納めていませんでした。金庫用のマンションを借りてそこに保管していたのですが、税務署に根こそぎ持っていかれましたよ」
刑務所暮らしはよほどこたえたのだろう。裏稼業から足を洗って、現在は正業に就いている。
今回逮捕された佐々木氏やA氏のような「道具屋」が一掃されれば、詐欺被害も減っていくのだろうか。
「通説ですが、東京都内だけで2万人の詐欺師がいると言われています。彼らは人を騙すことでしか生きていけない。電話を使った犯罪はなくならないでしょうね」
身に覚えのない電話には出ない。それしか防衛策はなさそうだ。