昨年11月、リコーが行ったリストラ目的の出向を人事権濫用とした判決が出た。現在、高裁で争われているが、極秘とされている同社の「追い出しマニュアル」を独占入手。そこから見えるのは、法のグレーゾーンを研究し尽した企業が、新たなスタイルの解雇を導入している事実だった!
コピー機のトップメーカーとして有名な株式会社リコーが、グループ全体で大規模な従業員削減を発表したのは11年5月のことだった。経済部記者が語る。
「この年はパナソニック、ソニーなど大手電機メーカーが一斉に大型リストラを発表した年でした。リーマン・ショックの影響による為替相場の変化で、輸出に依存する経営環境が急速に悪化し、業績が急落したからです」
3年で1万人削減を打ち出したリコーだが、第一次募集として約1600人が対象となったという。そのうち152人が退職勧奨に応じず、倉庫などへの出向を命じられたのだ。
「20名近くが個人でも加入できる労働組合『東京管理職ユニオン』の組合員になりました。12年、出向者の中で7名が東京地裁に裁判を起こしました。『リコー事件』と呼ばれる裁判です。13年11月、地裁は2名の出向を無効とする判決を下しました」(前出・経済部記者)
原告勝訴の判決について、被告側のリコー広報室担当者はこう答えるのだ。
「当社が出向命令権を有していること、出向に関する業務上の必要性があったことは認められた。すなわち、違法性はないという判断を得ることができたという認識です」
これまでのリストラは「能力がない」ことを理由に仕事を奪われ、地位や賃金を下げられ、窓際や「リストラ部屋」に追いやられることが一般的だった。ところが、リコーのケースでは新たなパターンになっているのだ。東京管理職ユニオンの執行委員長・鈴木剛氏はこう解説する。
「リコー事件の場合、『追い出し部屋』という新たな手法がとられています。一気に減給したり、降格すると違法になります。裁判になると勝てないので、リコーの場合は『あなたのためだ』と言って、賃金を下げず、ポジションもそのままにして、物流センターへの出向を命令したのです」
どんな会社にも働かない社員はいる。リコー事件の場合、リストラ対象となった1600人は、正当な理由で選ばれたのか──リコー関係者が語る。
「誰が選んだのかわかりませんが、適当に指名したという印象です。対象となった人の中には、約100件ほどの特許に関わり、金色のネームプレートが本社に飾られている人もいます。会社は、45歳から55歳という年齢で区切り、全部署ごとに6%~10%の割合で自動的にピックアップしたようなのです」
その年代の社員たちが送られた出向先は、20代の若い派遣社員たちが多くを占める、経験したことのない肉体労働を中心とした職場だったという。該当する年代の社員たちは「新たな能力開発」と称して過酷な労働を強いられ、ケガや病気を訴える人たちが多く現れたというのだ。