リコー広報室担当者は、
「出向命令というものは、経営上の判断において事業の効率化を図る中で、正社員の雇用維持と、外部流出コスト抑制を狙った業務の内製化を目的に行ったものです」
と説明するが、リコー関係者は出向先の地獄とも言える労働環境をこう語るのだ。
「中高年が40キロくらいのモニターを運ぶという仕事をさせられたりしています。気温の高いところで何度も運ばされるために、足がマメだらけになり潰れたりする男性社員や、長時間の立ち仕事によって、動脈瘤になり手術することになった女性社員もいます」
出向を命令するまでに、リコーでは4回ほど面接を行っている。だが会社側は面接用の「リストラマニュアル」を用意して機械的に社員を追い込んでいった。
入手したのは、「Ricoh」「二次配布/コピー厳禁」と印刷されたA4用紙2枚の書類である。1枚のタイトルは、「グループ内での『就業機会』を通知する際の伝え方」で、このように“迫れ”と指示されているのだ。
〈次の仕事をやってみて『自分の思いと違う』、あるいは『ずっとこの仕事を続けることは難しい』と感じ退職される際には、自己都合での退職になります。その場合は【1】特別退職加算金もなく、【2】失業給付金も少なくなり、【3】再就職支援も受けれません〉
また、「面談の進め方(まとめ)」と書かれた書類は、こう始まっている。
〈面談を進めるにつれ、“労務リスク”と“(リストラ)成功率低下のリスク”が発生していきます。(略)以下のような進め方で面談を実施いただきますよう、改めてよろしくお願い申し上げます〉
その書類では、第1回目から4回目までの面談の対応が細かに指示されているのだ。面談にはアメとムチが用意されている。
〈キャリア相談は、「誰かに相談することで不安を和らげる」「再就職に関する不安を和らげる」という目的があります〉
しかし、社員が2回目以降の面談で「辞めたくない」と伝えた場合には、聞く耳を持ってはいけないと「ムチ」の使い方が指示してあるのだ。
〈“論理的に説明して納得いただく”のではなく、“何を言っても会社の対応は変わらないのだと諦めていただく”という認識で、会社の対応が変わらないことを繰り返し伝えてください。話が平行線でも構いません〉
面接中の社員の反応の中で、「人本」と呼ばれる部署に特に報告すべきことまで指示されていた。
〈自傷リスクが高いと思われる場合には面談を止める可能性があります〉
こうした面接に耐えられず、退職に応募した人が悲劇の道を選んだ事件が発生したのだ。