「一度も自分の口から手術したなんて言ってませんし、今、自分自身がここにいるってことだけで十分なんじゃないですか」
首の手術報道後、数日間沈黙を守っていたが、6月5日の囲み取材で本田はこう口を開いた。手術から半年も経過した今頃になって報じられたことに、いらだちを隠せない様子だった。
「日刊の記者は、本田が名古屋グランパスに所属していた時から親交があり、手術は聞かされていました。ただ、病名までは教えられていなかったため、今まで報じなかったのですが、6月2日の夜は『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)で、本田に500日密着した内容の放送日だった。そこで手術について語られてしまう可能性が生じたため、その前にスクープという形で報道したようです」(スポーツ紙記者)
とはいえ、本田にとっては首の手術を報じられることよりも、まったく上がってこないコンディションのほうが深刻だった。Jリーグ関係者が語る。
「イタリアのリーグ戦終盤、4月下旬頃には現地メディアの取材に『自分はピッチ外において戦っていかなければならない重大な問題を抱えている』と、珍しく弱音を吐いたんです」
「重大な問題」とは、バセドウ病を完治させたのに、自分の思うようなプレーができなくなったことではないだろうか。
「本田といえば、当たりが強く、ボールキープ力が売りだった。しかし現在は、そのイメージに体がついていかないようで、すぐに息切れを起こして簡単にボールを奪われる場面が増え、単純なパスミスまでしている。以前はシュートを外した時ぐらいでしたが、今はボールを奪われるたびに、憤りを吐き出すように吠えてばかりいますね」(スポーツ紙記者)
体調が戻らないのには過密日程も関係しているようだ。スポーツライターの小宮良之氏が指摘する。
「ロシアで1シーズン戦ったあと、そのまま続けてイタリアのリーグを戦いました。冬の移籍直後は刺激もあってある程度活躍したのですが、休養もない体の酷使で、3月頃には体力が切れた状態になってしまったんです。また、名門クラブで10番を背負った本田への期待は大きかったのですが、結果が出なくてファンやメディアから、『本田は欧州で何もしていない』と露骨な批判が巻き起こった。のしかかるプレッシャーの中、心身ともに疲弊した状態で、本来のプレーをするのは難しい状況でした」
所属チームでの不調を引きずったまま代表でも結果を出せないエースの姿に、チームメイトからも不満の声が漏れてきた。6月2日のコスタリカ戦後、岡崎慎司(28)は報道陣にこう話している。
「ボールを預けたあとに返ってくるタイミングがよくなかった。プレースピードが上がれば、もっとよい圭佑になる」
本番を間近に控えて、このまま本田と心中するのか。ザッケローニ監督は決断を迫られていると、小宮氏は言う。
「このままコンディションが上がらなければ、本田を外したプランを用意しておくべきです」
本田の不調=日本代表の深刻危機なのである。