家康の性格については、「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」などの句に象徴されるが、若い頃の家康は、直情的でせっかちな側面もあったようだ。
性格や性癖は年齢によっても変わっていくのか疑問があると桐畑氏は言う。
「家康は生涯に11男5女をもうけたそうです。【8】若い頃には、2代将軍秀忠を産んだ西郷局をはじめ側室にはバツイチの元人妻が多かったのに、晩年は一転して14歳のお勝の方、17歳のお夏の方、15歳のお梅の方、最晩年の家康67歳の時には、54歳も年下の13歳のお六の方を側室にして可愛がっていたというから、これは1人の人間としてみると、性癖が変わりすぎていてヘンですよ。ここからは僕の自説ですけど、この女性趣味の変化は、人が入れ代わった、つまり影武者ではないかと考えています。僕の先輩芸人の方で、17歳の時の初体験の相手が年上の人だったためか、現在55歳になっても年上、熟女好きのままだと言っていましたから(笑)」
家康贔屓の堀口さんは、少し弁護気味に語る。
「最初の正室の築山殿は、おそらく家康にとって初体験の相手で、年上のお姉さんでしたが、後家好みから若い側室まで相手にしたというのは、秀吉に子供ができなくて苦労しているのを知っているので、後継者を産むということが何よりの目的だったからだと思います」
家康は、その築山殿と息子の信康を殺している。
【9】信康の正室として嫁いだ信長の妹の徳姫が、夫の信康と姑の築山殿への不満や、彼らが武田に内通しているという噂話を、父親の信長に訴え、これに激怒した信長の命令で、家康は正室を殺害させ、やむなく跡継ぎの信康を切腹に追い込んだと言われている。この事件は、信長に逆らえない家康の苦渋の選択だったとはいえ、なんともヘンで理不尽な行動である。堀口さんも、この一件だけは賛成できないという。
「この事件は家康にとっては最大の闇だろうと思います。ただ、この一件から家康の行動は、こんな地獄を繰り返してはいけないと戦いを止めるための戦いに向かっていく感じになる。関ヶ原の戦いの9月15日は、信康の命日で、それはまあ偶然ですが、そんな思いをもって家康は関ヶ原に向かったのかもしれません」
家康のこだわりぶりは健康オタクでも顕著だ。「家康の健康オタク、薬マニアが高じて命まで落としてしまった」と河合氏が続ける。
「【10】家康は、若い頃からみずから薬を調合して、いろんな大名に自分で作った薬を配っていたり、孫の家光が重病になった時、投薬して命を救っていますから、薬剤師としての高い能力があったようです。また、健康に気を遣い粗食に徹していましたが、晩年、鯛の天ぷらを食べすぎて体調を崩します。この時、家康は自分の薬で治そうとし、侍医の片山宗哲の薬を飲みません。そこで宗哲がこの事実を息子の秀忠に訴え、秀忠が侍医の薬を飲むように家康を諭すと、激怒した家康は宗哲を信濃に流罪にしてしまいました。なお、自分の薬を飲み続けても回復せず、家康はやがて亡くなってしまいました。残念な最期です」
桐畑氏は、家康は基本的に“人を信用しない性格”だと分析する。
「幼少期に父親とお祖父さんの2人とも、家臣に殺されているという説があります。だから、医者さえも信用できなかったんでしょうね」
堀口さんも、
「心から信頼する家臣や友達はいなかったのかもしれません。だからこそ組織を強くして、将軍がどんな人でも回るような組織、システムを作っていったんだと思います」
家康が作った幕府のシステムとは何か。河合氏が語る。
「豊臣家が滅んだ1年間に家康がやったことは、すごいものがあります。武家諸法度で大名の行動を縛り、一国一城令で大名の城は1つにすることとして、ほぼ武装解除の状態にしました。さらに、禁中並公家諸法度で天皇や公家の政治活動を抑え、寺院も法度で縛ります。特に一向一揆で信長を困らせた本願寺は、西と東に分裂させたのです」
家康が天下を取り、徳川将軍15代まで続く、長期の平和を築けたのは、そうしたシステムを作ったことと、ここぞというタイミングでライバルたちが退場していった強運も大きかったと言えよう。
その一生において、常に岐路に立たされ、その時々で“ヘン”とさえ見える選択を強いられた家康。
間断なく“どうする家康”との自問が響いた生涯ではあった‥‥。
堀口茉純(ほりぐち・ますみ)明治大学卒業。TOKYO MX「ぐるり東京江戸散歩」等に出演中。著書「江戸はスゴイ 世界が驚く!最先端都市の歴史・文化・風俗」(PHP文庫)他多数。
河合敦(かわい・あつし)65年、東京都生まれ。多摩大学客員教授。歴史家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。最新刊に「徳川家康と9つの危機」(PHP新書)。
桐畑トール(きりはた・とーる)72年滋賀県出身。お笑いコンビ「ほたるゲンジ」、歴史好き芸人ユニットを結成し戦国ライブ等に出演。「BANGER!!!」(映画サイト)で時代劇評論を連載中。