これはあまりに故人への礼節に欠けていた、と言わざるをえない。
2月26日の「サンデーモーニング」(TBS系)で、2月13日に亡くなった漫画家の松本零士氏を取り上げたものの、法政大学前総長の田中優子氏ら老年コメンテーター達は「(松本氏の作品を)見たことない」「名前しか知らない」と故人はもちろん、視聴者をバカにしたコメントに終始したのだ。
極め付きは、元外務事務次官の薮中三十二氏。「見ても読んでもいない」と言いながら「戦争にロマンを見出している作品と勘違いしていた」などと発言し、「戦争作品」と決めつけた。番組自体は松本作品に込められた平和への思いを代弁したかったようだが、「老人の偏見」のせいで平和という言葉の軽さ、白々しさが残っただけだった。
番組で取り上げるテーマをコメンテーターが知らない、というのはあり得ない。TBS関係者が言うには、
「取り上げたのは『風を読む』という番組内の特集コーナーです。訃報に合わせて急きょ、映像を編集したニュース原稿ではありません。内容は出演者に告知もしているし、事前打ち合わせもしていると聞いています。下調べもせず『戦艦大和』と聞いただけで戦争アニメだとする妄想と偏見をタレ流し、しれっとギャラを受け取る老人たちは、もう地上波に出ない方がいい」
それなら松本氏ではなく、2月24日に亡くなった「西山事件」の西山太吉氏と在日沖縄米軍の特集でも組めばよかろう。同番組のコメンテーターや視聴者が大好物なネタだ。
筆者にも多少は怒る資格がある。筆者の恩師で、かつての新人教育担当デスクが1980年1月から産経新聞紙上で連載していた「1000年女王」の担当編集者だった縁で、新人記者時代に一度、松本零士氏とお会いしたことがあるからだ。
松本氏の実家は、今のJR小倉駅近くにあった。
「山陽本線や貨物列車の線路に面していて、毎晩、線路の上に広がる星空を眺めていた。遠くなる夜汽車が線路の彼方、星空に消えていく光景に、いつか自分も地平線の彼方、銀河のように煌めく東京に出ていこうと思った」
そんな少年時代の夢を伺った。「銀河鉄道999」のワンシーンのようだ。
「自分の作品を読んだ少年少女たちが宇宙に興味を持ってくれるのが、いちばん嬉しいんですよ。そのために漫画を描いてきた。地球上で戦争を繰り広げることへの馬鹿馬鹿しさに気づいてくれたら」
とも語っていた。JAXAの宇宙飛行士や研究者の多くが松本氏の作品を読んで宇宙に興味を持ったのは、有名なエピソードだ。
ちなみに遠慮のない新人記者は、ネットニュースでたびたび取り上げられている「メーテルのモデル」についても尋ねた。酔いが回ると「我が青春のマリアンヌ」、さらに酒が進んだ宴席の終わりには「さっきの話、実は八千草薫だったかも」と、いたずらっ子のように打ち明けていた。結局、メーテルのモデルと車掌の正体は謎のままだ。
本題に戻れば、2月も終わるというのに、老人の妄想で松本氏のような戦争経験者を冷嘲熱罵する「サンモニ」の終了、MC交代の噂は、残念ながら聞こえてこない。
(那須優子/医療ジャーナリスト)