本連載の締めくくりにあたる今回は、性感染症を巡る「チン騒動」を取り上げる。
実は前回紹介した(3月2日公開記事)クラミジア感染症は局所のみならず、喉にもよく感染する。最も典型的なケースは、夫以外の男性とのオーラルプレイを介して、妻の喉にクラミジア(咽頭クラミジア)が棲みつき、その後の夫とのオーラルプレイの際に、妻の喉から夫のシンボルに感染する(性器クラミジア)、というパターンである。
咽頭クラミジアはまた、キスだけでも感染することがある。要は性行為をしなくても感染の危険性が生じてくるという感染力の強さが最大の特徴だが、性器クラミジア感染者の10~20%が咽頭クラミジアにも感染している、という統計データもある。
いずれにせよ、妻の感染と過去を知ってしまった、全く身に覚えのない夫の胸中は、前回までに指摘した梅毒やエイズや性器クラミジアのケースともまた異質な、やり場のない衝撃や怒りで一杯になるのだ。長年、東京都内にある著名な大病院で産婦人科の診療科長などを務めてきたベテランの専門医も、次のように明かしている。
「妊娠時や妊娠中の性感染症検査で妻の咽頭クラミジア感染が確認され、その後、夫が性器クラミジアに感染していることも判明してしまったケースは最悪です。中には診察室で『私は性行為だけはしていません!』と叫び、それまでの萎縮し切っていた態度を一変させて開き直る妊婦さんもいます。しかし、ゴムをつけたオーラルプレイで咽頭クラミジアに感染することはほとんどありません。妻から『性行為だけはしていない』と言われたところで、大半の夫は納得できずに、激しい怒りを露わにします」
当然ながら、診察室は修羅場と化す。ベテランの専門医が続ける。
「ある夫は『テメエは男と遊んだその口で、オレに病気を移したのか!』などと怒鳴り散らし、妻を罵り続けました。『キスしかしていない』という妻の言い訳が、修羅場の火に油を注いだケースもありました。さらに言えば、同様の大トラブルは、同じく喉を介して感染する淋病でもしばしば勃発します。クラミジアも淋病も、抗生物質の服薬によって簡単に完治するにもかかわらず、です。草食男子に肉食女子。昔から『口は災いの元』と言われますが(苦笑)、つくづく時代は変わりつつあると実感しています」
まさに「チン騒動」と呼ぶにふさわしい悲喜劇が、今日も繰り返されているのだ。