前回(2月23日公開記事)は、ここ数年で性感染症の国内感染者数が急増していること、中でも2012年以降、女性の梅毒感染者数が10倍以上に激増していることなどを指摘した。
梅毒は梅毒トレポネーマと呼ばれる螺旋状の細菌(スピロヘータ)を病原体とする感染症で、性的な接触(局所や口などの皮膚や粘膜との接触)を主な感染経路として、概略、病期の進行とともに、以下のような症状が出現してくる。
I期(感染後3~9週間):感染が起きた部位(局所、口唇部、口腔内、肛門など)にしこりや潰瘍ができる。また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れる
II期(感染後9週間~3カ月):体全体にバラ疹(エンドウ豆大の薄い紅斑)が多数発生する。また、丘疹(体全体)や粘膜疹(口腔内など)が現れることもある
III期(感染後3~10年):皮膚や筋肉や骨、肝臓や腎臓などにゴム腫(ゴムのような腫れ)や硬いしこりが生じる。また、III期以降は晩期梅毒とも呼ばれる
IV期(感染後10年以上):心臓血管系や中枢神経系が侵されるとともに、大動脈瘤や進行麻痺や認知障害などの症状が現れ、やがて死に至る
ちなみに、ペニシリンなどの抗生剤による治療が普及した1940年代以降、梅毒は早期に適切な治療を受ければ完治が得られる感染症となった。
ただし、その梅毒にも、妊婦にとっての「2つの落とし穴」が存在しているという。性感染症に詳しいベテランの産婦人科医が明かす。
「I期からII期までの早期梅毒の場合、梅毒血清反応だけが陽性で無症状だったり、一部の症状が出てもすぐに消失したり、といったケースは少なくありません。そのため、女性の梅毒感染者数、とりわけ20歳代女性の梅毒感染者数が激増しているここ数年は、妊娠時や妊娠中の性感染症検査を受けて初めて、梅毒に感染していることが判明する妊婦さんが急増しています。これが妊婦さんにとっての第1の落とし穴になっています」
第2の落とし穴は、胎児への影響だ。ベテランの産婦人科医が続ける。
「妊婦が梅毒に感染した場合、流産や死産などのリスクのほか、母子感染による胎児への影響、いわゆる『先天梅毒』のリスクも高まります。先天梅毒にかかって出生した場合、生後間もなく低体重や骨の異常などが現れ、その後、難聴や視覚障害、知的障害などの深刻な症状が現れることもあります。妊婦が梅毒の治療を受けずに出産した場合の先天梅毒の確率は40%とされていますが、治療によって完治を得た後に出産した場合でもなお、胎児が先天梅毒を持って生まれてくる確率は14%とされているのです」
夫側に全く身に覚えがなければ、診察室はまさに修羅場である。