ドラフト1位で入団しただけのことはある。阪神の森下翔太。右足の肉離れでキャンプは2軍スタートとなったが、途中から1軍に昇格。実力の片鱗を発揮してライトでの開幕スタメンが見えてきた。岡田監督は新人王を獲得した自身のルーキー時代より実力が上と発言するなど、相当ほれ込んでいる。
僕もグラウンドに下りて間近で森下を見てきた。鍛え上げられた立派な体をしているし、顔もいい。男前というより、野球がうまそうな顔をしている。長年、この世界にいると顔つきで何となくわかる。そして、一番の長所はやっぱりパワフルなバッティング。オープン戦の結果はともかく、ボールの見逃し方に光るものがあった。強く振るタイプなのに途中まで打ちにいきながらスイングが止まるのは、下半身を使えているから。上体の力に頼ってスイングする選手は途中で「アカン、ボールや」とわかってもバットを止めることができない。この見逃し方ができるかどうかは重要なポイントとなる。
心配なのは阪神ファンの期待するハードルがかなり上がっていること。中央大学で2学年上のDeNA・牧秀悟が1年目から打率3割1分4厘、22本塁打、71打点の成績を残した。でも、この数字を今から求めたらかわいそう。長いプロ野球の歴史の中で新人で3割、20本塁打をマークしたのは、他に長嶋さんと、石毛、清原の4人だけ。20本以上のホームランを打つなら打率は2割2、3分でもいい。あえて目標を設定するなら、打率2割5分、15本塁打のラインかな。アマチュア時代とは対戦する投手のスピードも変化球も数段上になるし、何よりデータがそろうと弱点を見つけられ丸裸にされてしまう。シーズンを通して活躍するのは簡単なことではない。
森下の強みは走攻守の3拍子そろっていること。外野手はフライを捕る時にボールを見て追いかけるのではなく、落下点を予測して待って捕ることが大事。プロでも基本ができていない選手が少なくないけど、森下はできている。肩も強いし、首脳陣は安心してライトを任せられると思う。オープン戦では盗塁を決めるなど、足も使えるから、打てなくてもベンチは我慢して起用できる。
一人、イキのいい選手が入ってくると相乗効果が出てくる。大山、佐藤輝も負けてられないとなるし、同じ外野で高卒4年目の井上は明らかに目の色が変わった。履正社出身の右の大砲候補はキャンプの紅白戦から猛烈に打ちまくった。昨季まで、1軍ではわずか8試合の出場。森下の加入で尻に火がついた感じや。長打力だけなら森下以上で、チームでも屈指の存在。新外国人のノイジーが故障で調整が遅れているだけに、右翼は森下に譲ったとしても、左翼でのスタメン出場の可能性が見えてきた。
阪神でもう一人注目している新戦力が、日本ハムからトレードで加わった渡辺。もともとはストレートにはめっぽう強いが、変化球に弱いという評判やった。ところが、オープン戦を見る限りでは変化球にもついていけている。二塁は昨季までの遊撃からコンバートされた中野がいるけど、渡辺も先発で使える打撃をしている。遊撃では木浪も猛アピールしており、二遊間の層は一気に厚くなった。内外野ともにチーム内競争は激化。ここまでは岡田監督の狙い通りというところやろね。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。