今年は久々に、阪神の沖縄・宜野座キャンプの取材をしっかりやってきました。昨年までコロナ禍で禁止されていた評論家のグラウンドへの立ち入りがようやく許された。やっぱり、スタンドで遠くから見るのと、打撃ゲージの裏で近くから見るのとでは濃さがまったく違う。関係者の話も聞けるしね。2月14日には熱狂的な猛虎ファンの俳優・渡辺謙ちゃんと一緒に岡田監督と歓談。とにかくご機嫌でニコニコしていた。チーム全体に活気があるし、「アレ」に向けて相当な手応えをつかんでいる様子やった。
最も目を引いたのは大山の調子のよさ。岡田監督のアドバイスでミートポイントをボール1、2個前にして、楽にスタンドに放り込めるようになった。表情からも自信が伝わってくる。今まではボールに差し込まれる傾向があったけど、ポイントを前にしてバットのヘッドが走る感覚をつかめたと思う。バッティングもパンチも一緒。腕を伸ばしてガツンとやるのがいちばん力が入る。
大山はプロ7年目の28歳。これからいちばん脂の乗ってくる時期で、今年こそホームラン30本の壁を越えなアカン。岡田監督も不動の4番として期待している。打つ形はしっかりできているんやから、配球がどうとか余計なことを考えすぎないこと。昨年まではヤマが外れてサッパリみたいな打席もあった。当然、他球団のマークは厳しくなるけど、大事なのは甘い球を確実に仕留めること。難しい球を追いかけすぎると、形まで崩れてしまう。
では、4番打者は大丈夫として、前後をどう固めるか。クリーンアップがしっかり機能したら、投手陣の力量を考えると独走してもおかしくない。今の感じやと3番に新外国人、5番が佐藤輝になるのかな。佐藤輝も大山と同じようにミートポイントを前にするようアドバイスされて、いい感じで打てていた。昨年は1年目の成績から考えると、打率2割6分4厘、20本塁打の物足りない数字に終わった。だけど、こちらも30発が期待できる。
新外国人野手のノイジーとミエセスは練習を見る限りでは一発を期待できるパワーがあるし、特にノイジーのほうは広角に打てる安定感がある。でも、外国人は開幕してみないとわからない。これまでもオープン戦までは絶好調で「バースの再来」と呼ばれた選手が何人もいたからね。
このキャンプでは鳥谷、赤星という2005年の優勝経験者が臨時コーチとしてグラウンドに立った。エラーを少なくするのも岡田阪神の大きなテーマ。名手でもある鳥谷の教えは若手内野手の参考になることが多かったはず。走塁を教えた赤星もいいことを伝えていた。牽制には頭からではなく、足で帰るように、と。肩を脱臼したり、突き指したりと、ケガのもと。僕が常々言い続けていることと一緒。昨今は頭から帰塁する選手が多い。でも、赤星に教えられた直後も足から帰らない選手がいたことにはガッカリさせられた。
赤星も首の故障で若くして現役を引退しただけに、ケガの怖さはよく知っている。アウト1回、ケガ一生。ほんまに主力の「コレ」が「アレ」を狙ううえではいちばん痛い。最大13ゲーム差を巨人にひっくり返されて岡田監督が辞任した08年も新井の故障が響いた。アクシデントさえなければ、監督復帰1年目で18年ぶりの頂点が見えてくる。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。