去る3月5日開催の「東京マラソン2023」で2時間27分2秒の好タイムでフィニッシュした猫ひろし。45歳にして8年ぶりに自己ベストを更新した原動力とは? レース3日後に本人を直撃した。
今回のレースには、コロナ禍前とほぼ同じ規模となる3万8228人が出場。42.195キロの沿道には再び大歓声が戻った。
「妻と小学6年生の娘が応援に駆けつけてくれたのですが、コースからかなり離れたところから眺めていたようで全然見つけられませんでした。キョロキョロ探していなければもっといいタイムが出たかも(笑)」
8年前、猫が37歳の時に出場した同大会での記録は2時間27分48秒だったが、45歳で迎えた今回は46秒短縮できた。その奮闘を見た世間からは、「中年の星」といった称賛の声が上がり、各メディアでも大々的に報じられた。
「30歳からマラソンを始めた僕を15年間ずっと支えてくれたのが中島進コーチ。彼も30歳からマラソンを始めて、43歳の時に自己ベストを出しました。だから今年こそは、コーチの記録(2時間27分12秒)を抜いて、“猫の恩返し”をしたいという気持ちが強くありました。ゴールした時も駆け寄ってきて、『よく頑張った』と誉めてくれたのがうれしかったですね」
心の支えはコーチの存在だけではなかった。
「芸人仲間たちもスタート前から最後までずっと見守ってくれていました。走り終わった後の第一声が『(自己ベスト更新は)みんな無理だと思っていました』って(笑)。応援してくれた皆さん、家族、コーチ、ランニング仲間と芸人仲間たちには本当に感謝しています」
猫のモットーは「マラソンに嘘はニャイ、まぐれはニャイ、走った距離は裏切らニャイ」。しかし、今回の快挙の裏には練習量の見直しがあったようで、
「これまではハードな練習をしすぎていたせいで怪我も多かった。毎日30キロ走っていましたから。だから今大会前からは、体の様子を見て20キロに短縮することもありましたし、ポイントとなる練習の日は全力でやるけど、繋ぎの日は、体が疲れていたら思い切って全休にして疲労の回復に努めるなど、『休むのもトレーニング』と自分に言い聞かせました。体力的にしんどい時は無理せず休む。練習時間も夜から朝に変えて、自分に合ったリズムを習慣化。体の声によく耳を傾けたことで、今までにないくらい最高のコンディションで本番に臨めたのが今回の自己ベストに繋がったんだと思います」
5日のレース直後にはお笑いライブに出演して、驚異のスタミナを世に知らしめる形に。
「今回の件が話題になったことで、お笑いライブに出演させてもらう機会も増えました。僕の場合、人を勇気づけるためにランナーや芸人をやっているとか、そんなたいそうなことを言える立場ではありません。でも、『猫ひろしを見て元気が出た』と言ってもらえるのが素直に一番うれしい。そういう意味では、マラソンもお笑いも似ているのかもしれませんね」
昨年6月にはウェブ媒体「Number Web」で、「選手としては、次のパリ五輪を目指すつもりはない」と断言していた猫だが、マラソンに関しては「生涯現役」を貫くつもりだ。
「いつかはベストタイムも出なくなって、競技生活から身を引く日が来るでしょう。でも、マラソンは生涯やっていこうと思っています。野良猫って死ぬ姿を人に見せないって言うじゃないですか。誰にも気づかれることなく延々と走り続けて、そのうちどこかの道路でのたれ死にしているかもしれませんね(笑)」
そんな猫には、はるか先を見据えた目標があった。
「いつか健康食品や青汁のCMに出てみたいですね。高齢になった僕が『江東区の猫ひろしさん』になって『毎日青汁を飲んでるので健康です』なんて(笑)。そんなオファーに備えて、これからもマラソンを続けて健康体を維持していくつもりです」
夢に向けて猫まっしぐら。これからもお笑い界とマラソン界を駆け抜けてほしい。
(フリーライター 岡田光雄)