毎年10月にフランスのパリロンシャン競馬場で行われる「凱旋門賞」(G1、芝2400メートル)には、69年のスピードシンボリによる初参戦以降、「欧州最高峰」とも「世界最高峰」とも言われる頂上決戦での栄冠を目指して、JRA(日本中央競馬会)所属のスターホースが数多く挑戦してきたが、日本馬の優勝はまだ一度もない。
これまでに参戦した日本馬の最高着順を見ると、99年のエルコンドルパサー、10年のナカヤマフェスタ、12年のオルフェーヴルの「2着」が精一杯。昨年の日本ダービーを鬼脚で制したドウデュースは19着と大敗し、その激走の反動が出たのか、今年3月のドバイターフでは、左前肢跛行による出走取消に追い込まれている。
過去33頭もの名だたる有力馬が挑戦しながら、なぜ日本馬は凱旋門賞を獲ることができないのか。「凱旋門賞は欧州馬しか勝てないことになっている」との陰謀論も渦巻く中、実はその「根本原因」として指摘されているのが「JRA」と「馬産」なのである。
「JRAは『スピード』と『キレ』をキーコンセプトに、馬場整備を行ってきました。その象徴とされているのが3歳王者、否、種牡馬としての生涯価値を決する日本ダービーです。事実、同レースが行われる東京競馬場の馬場、とりわけダービーデーの馬場は、スピードとキレがなければ勝てないように仕上げられてきました」(競馬関係者)
しかも、スピードとキレに特化した馬場整備の一大方針は、一部の生産者の思惑とも見事に一致するものだった。さる馬産地関係者が、次のように明かす。
「例えば、稀代の名馬ディープインパクトとその産駒は、まさにスピードとキレを武器に黄金時代を築きました。『鶏が先か』『卵が先か』はわかりませんが、要するにJRAと一部の生産者が呼吸を合わせる形で、世界に例を見ない超高速馬場が整備されるとともに、超高速馬場を見据えた馬産が行われてきたのです」
ところが、凱旋門賞が行われるパリロンシャン競馬場の馬場は、スピードとキレとは真逆の「重厚な馬場」であり、同レースを制した歴代欧州馬の血統もまた、スピードとキレとは真逆の「重厚な血脈」なのである。
世界の名手と言われる武豊はかつて「メジロマックイーンなら、凱旋門賞を勝てたはず」とのホンネを漏らしたことがある。この述懐は、メジロ牧場が育んだ重厚な血脈を持ち、重厚な馬場を得意とするマックイーンなら…ということだったのではないか。