10年ぶりの日本銀行トップの交代劇。これまで黒田東彦前総裁が推し進めたアベノミクスの支柱である「異次元の金融緩和」の出口戦略を託された新総裁の植田和男氏は、
「(金融緩和策は)現状の経済、物価、金融情勢を鑑みると、継続するのが妥当であると考えている」
4月10日に行われた総裁就任会見で、そう述べた。
新総裁内定が報じられた2月、財務省出身者でも日銀副総裁経験者でもなく、学者の抜擢は「サプライズ人事」と呼ばれたが、その会見内容はサプライズとはならなかった。経済ジャーナリストが解説する。
「国債の大量買い上げにマイナス金利、長期金利操作と景気浮揚のために行ってきた黒田日銀のウルトラC政策をいっぺんに止めてしまっては国民生活が破綻してしまいますが、いつまでもウルトラCを続けられるものではない。現在はコロナとウクライナ戦争で物価だけが上がり、給料が上がらないという難しい局面です。植田氏が就任会見で『当面は続ける』と話すのは想定内で、徐々に金融緩和を止めていくとみられます」
ところで、植田氏は難しい決断をできるほどの実力者なのだろうか。確かに、学者としての経歴は一流だ。東大理学部で数学を修め、経済学部に学士入学。数理経済学と国際金融論を学び、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得した、理論派経済学者である。
「単なる理論派ではなく、行動派でもあります。自身の理論が正しいのかどうか、みずから株式投資をやったこともあるそうで、大損しそうになったといいます。また、日銀政策委員を務めていた00年に、当時の総裁がゼロ金利解除を打ち出すと、反対票を投じるなど、決して他に流されない信念の強さを持ち併せた学者という印象です」(前出・経済ジャーナリスト)
なるほど、金融緩和からの出口戦略を任せても大丈夫そうに聞こえるが、
「植田氏は金融緩和策からの脱却は難題だと早くから指摘しており、特に長期金利操作は効果が薄いと評価している。なので、長期金利操作から手をつけ始めるでしょう。が、これは住宅ローンの金利上昇につながる問題ですから、植田総裁の決断しだいでは、庶民の生活がガタガタになるかもしれません」(前出・経済ジャーナリスト)
4月下旬に予定されている政策決定会合が注視されるのだ。