景気浮揚だと浮かれるアベノミクスは、その実態を知れば知るほど怒りが湧いてくる。サラリーマンのクビ切り自由化のニュースで国民は驚かされたばかりだが、さらに正社員のほとんどを「アルバイト」の身分に落とす法案提出が現実のものとなりつつあるという。政府の信じられない仕打ちの全貌をいち早く詳報する。
まずは次の一文をとくとお読みいただきたい。
〈自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、しかし、ウォール街から世間を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道理を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります〉
これは今を時めく安倍晋三総理(58)が、政権奪還を目前に控えた昨年12月上旬、「月刊文藝春秋」誌上で打ち上げた「新しい国へ」と題する政権構想の一節である。ところが──。
それから3カ月後の3月15日、安倍総理が年明け早々に鳴り物入りで立ち上げた「産業競争力会議」の第4回会合で配布された資料には、次のような驚くべき文言が並んでいた。
〈現状では大企業が人材を抱え込み、「人材の過剰在庫」が顕在化している。(中略)雇用維持型の解雇ルールを世界標準の労働移動型ルールに転換するため、(中略)最終的な金銭解決を含め、解雇の手続きを労働契約法で明確に規定する〉
金を払えば解雇できるという、世間を驚かせたこの「会社員クビ切り自由化」法案についてはそのカラクリを含め、本誌も詳報した。
道理を重んじ、真の豊かさを知る市場主義こそ日本の国柄にふさわしい。こう言っていた舌の根も乾かぬうちに、働く同胞を「過剰在庫」呼ばわりし、強欲な世界標準に合わせてクビを切れと奨励する。このギャップにこそアベノミクスの「正体」、ハッキリ言えば「まやかし」が隠されているのだ。アベノミクスに懐疑的な自民党の有力議員は、
「安倍総理とて、瑞穂の国の資本主義など本気で信じているわけではない」
と前置きしたうえで、次のように明かす。
「しかし、政権さえ奪取すれば景気をよくすることはできる、という自信と確信は大いに持っていた。それを天下に示しておいて『ならばサラリーマンの給料も上がるのか』と突っ込まれたら『何を言ってるんですか。経済もよくなっているし、雇用も増えているじゃありませんか』。こう切り返して野党や国民を煙に巻く。安倍総理が描くシナリオはこんなところです」
まさに国民へのだまし討ちだが、クビ切り自由化だけでは飽き足らず、さらなるサラリーマン殺しの一手をひそかに準備中だ。その全貌に触れる前に、アベノミクスの現状を簡単に解説しておきたい。
金融緩和と財政出動と成長戦略というアベノミクスの「3本の矢」のうち、最初の2本の矢が大成功を収めたのは周知のとおり。実際、日銀総裁の首をすげ替えてデフレ解消を宣言し、超大型予算を発動して需要を喚起しただけで株高と円安が劇的に進行、景気も上昇局面に突入したのである。