一般庶民置き去りの「好景気」が吹聴されている一方で、我々に押し寄せてくる「被害」の正体は明らかにされていない。国債暴落による失業地獄、崩壊するセーフティネット、クビ切り法案‥‥すぐそこにある真実の危機とは──。
黒田(東彦日銀総裁=68=)さんは、やりすぎたと思っています。市場を驚かせすぎた。何であんなにやっちゃったんでしょう。普通にやってほしかったですね。
こう語るのは、小幡績氏だ。東大経済学部を首席で卒業し、大蔵省に入省。退職後、ハーバード大学で経済学博士を取得した気鋭の経済学者である。
今の株式相場を見ていると、5月以降はバブルに突入したと自信を持って言えます。株で儲かった人が、さらに株を買っている。循環物色というのですけど。円安だから輸出関連株を買い、それを売ってインフレだから不動産関連株を買い、大型株で儲けたあとは、次は新興株だと。5月15日に新興市場が暴落し、その後、日経平均が上がった。この動きは明らかにバブルです。
バブルには崩壊した時に、実社会に強い影響があるバブルと、影響がないバブルがあるという。99年からアメリカで起こったITバブルは「ない」ほうの好例だ。
ITバブルは銀行が絡んでいなかったのです。彼らはベンチャーキャピタルと起業家が株を高く売りつけて儲けただけです。企業は単に上場し、その株式の取り合いによって、株価が上昇しただけでした。崩壊しても経済への影響はあまりなかった。その後の9・11のテロやエンロン・ショックへの対応で、金融緩和という対処さえすれば社会的な影響がなく「バブルの後遺症は大したことがない」という認識が生まれてしまいました。この金融緩和によって市場にお金をあふれさせたことがリーマン・ショックにつながります。こちらのバブルは、銀行が絡んでいて、不動産も絡んでいましたので、社会に対する影響は大きなものでした。現在のアベノミクスは日銀が絡んでいるから、経済への影響が大きいバブルです。
黒田日銀は、お金を大量に供給し、その資金で国債を買うことを発表している。異次元の規制緩和は「黒田バズーカ」と呼ばれ、株価のバブルが膨らんだ。一方、日本国債もバブルとなったというのだ。
財政が悪化している日本の国債は割高です。中小の金融機関などは、日本国債以外に買うものがないから買っているわけで、バブルなのです。そこに、日銀というややこしいプレーヤーが出てきて、「俺が全部買ってやるぜ」なんて言ってしまったのです。最近の日本国債は乱高下しています。日銀が支えるなら、値上がりするという理由で買う人と、今後どうなるかわからないからと、売って逃げる人が混在している。だから、乱高下しているのです。
国債は政府の借金ですよね。より簡単に借金できる方法を見つけたわけですが、これが経済にとってはよくない。国債は銀行が持っており、日銀が買い支えてくれるから国債を買い続け、持ち続けてしまう。本来、金融機関は経済に価値をもたらす民間にお金を貸して、経済を活性化しなければならないのに。借金し放題で日本経済は行き詰まる。「安楽死」と私は呼んでいます。
先ごろ上梓した「ハイブリッド・バブル」(ダイヤモンド社)には、国債暴落のシナリオが書かれている。
国債バブルが崩壊すればショック死するので、モルヒネを打ち続けている状況です。問題は、先週、日銀が国債を買い続けているのに、国債の値段が下がったことです。市場関係者は警戒しています。将来が不透明な国債から、地方銀行が逃げたとも言われています。
国債が下がれば、保有している銀行は損をします。スペインでは銀行が国債で損を出し、民間融資を引き揚げました。結果、若者失業率は50%を超え、全体失業率は25%ですよ。
日本でも同じような危機が起こるきっかけを作っているのが今の黒田日銀による金融政策の緩和、リフレ政策で、やりすぎは非常に危険じゃないかと思っています。短期で株が上がって喜んでいるけど、国債なのです、問題は。
政府はコツコツと財政再建するしかないと思っています。支出を少しずつ減らして、必要なものさえも少しずつ減らしていかないといけない。結局、年金を減らすとか、老人医療費補助とかも、少しずつ減らしていくしかない。しかし、それは無理でしょう。票田ですから。政治は票のあるところに金を出すのですから安楽死か、ショック死か‥‥破綻するしかないのかもしれません。
小幡績(慶應大准教授)