旧ソ連の対ドイツ戦勝記念日にあたる5月9日、首都モスクワの「赤の広場」で挙行された記念式典は、プーチン大統領とロシア軍の窮状を内外に晒すイベントとなった。
世界が注目した大統領演説も、対ウクライナ戦争の戦果を何ひとつ示すことができず、聞き飽きた従来の主張を繰り返すことに終始。核をチラつかせてのお得意の恫喝も、クレムリンへの無人機攻撃の一件も、スルーせざるをえない低調ぶりだった。中でも西側諸国の失笑を買ったのが、軍事パレードに登場した戦車隊である。
軍事パレードの先陣を切って姿を現したのは、第2次世界大戦で活躍したレジェンド戦車のT34。その後にどんな最新鋭戦車隊が続くのかと思いきや、あろうことか、パレードに登場した戦車はこの骨董戦車1両だけだったのである。軍事アナリストも苦笑しきりで、
「昨年の軍事パレードでは、最新鋭の主力戦車T14アルマータなど、21両による戦車隊が編成された。ところが今年は、骨董モノのポンコツ戦車がわずかに1両。ウクライナ戦争で劣勢に追い込まれ、軍事パレードに回す戦車がないとは聞いていましたが、まさに『貧すれば鈍する』です。昨年に比べていささか老けたように見えるプーチンの姿も含めて、なにやら哀れささえ漂う、前代未聞の戦勝記念式典でした」
それだけではない。今年の式典に参加した兵士の数は、昨年から約3000人減のおよそ8000人。昨年に引き続いて目玉の航空ショーが行われなかったほか、戦死した兵士の家族らが遺影を掲げて行進するパレード「不滅の連隊」も、モスクワをはじめとして、ロシア全土で開催が中止される事態に追い込まれてしまったのだ。
「このパレードを行ってしまえば、ウクライナ戦争に駆り出されて犠牲になった兵士がいかに多いかがバレてしまいかねませんからね」(国際ジャーナリスト)
ちなみに、プーチン大統領は今回の演説で初めて「戦争」という言葉を口にした。実はロシアでは、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を「戦争」と表現した者は、禁固15年の刑に処されることになっている。
にもかかわらず、プーチン自ら、あえて「戦争」という禁句を持ち出して、国民や兵士らの士気を高めなければならなかったところにも、プーチンとロシア軍が置かれている、尋常ならざる窮状が見て取れるのである。