今年2月、東京都江戸川区内の住宅で、住人男性がメッタ刺しにされた殺害事件。警視庁小松川署は5月11日に、殺害現場近くの江戸川区立松江第五中学校に勤める現役教師、尾本幸祐容疑者を金品窃盗目的の殺人容疑で逮捕した。
その後、尾本容疑者には投資やギャンブルで数百万円の借金があり、カネのやりくりに窮していたことが明らかになっている。小松川署は「金品窃盗目的で住宅に侵入した尾本容疑者が、帰宅した住人と鉢合わせになって犯行に及んだ」とみている。
それにしても、投資やギャンブルをやめることができず、窃盗どころか殺人まで犯してしまう容疑者の心理とは、いったいどのようなものなのか。投資やギャンブルをはじめとする依存症に詳しい、心療内科医が解説する。
「投資やギャンブルでたまたま大儲けしたりすると、脳内薬物とも言われるドーパミンが大量に放出され、脳内にある『報酬系』と呼ばれる部位が強く刺激されます。ドーパミンは強烈な快感や多幸感をもたらす神経伝達物質で、快楽経験を何度か繰り返すうちに、その甘美な記憶が脳の奥底に刻み込まれていくのです」
ところが、快楽の赴くままに投資やギャンブルを長く続けていると、脳内にある報酬系はドーパミンの刺激に対して次第に鈍感となり、それまでのような強烈な快感や多幸感を得られなくなっていく。心療内科医が続ける。
「これは神経順応による報酬欠乏症と呼ばれる深刻な状態で、多くの場合、かつての快楽経験を追い求める『報酬系依存症』に陥っていきます。報酬系依存症は薬物依存症と全く同じで、借金で首が回らなくなっても投資やギャンブルをやめることができず、窃盗や強盗、場合によっては殺人にも平然と手を染めることになるのです」
この心療内科医によれば、犯罪者になるか否かは「どうしてやめられないのだろう」と感じた時点で、専門医に相談できるか、にかかっているという。
報酬系依存症は、人生を破滅に追い込む恐怖の病なのだ。