当然、石破氏もすぐに安倍総理の思惑に気づき“口撃”を開始した。政治部デスクが言う。
「安倍総理の『(安保相の適任は)そうはいないよ』という言葉をマスコミを通じて石破幹事長にしつこく当てさせると、石破氏は『(先に名前があがっていた)高村副総裁の二番煎じは受けんよ』『オレを封じ込めるつもりなんだよな』と本音を漏らし始めた」
石破氏にしてみれば、安全保障では一家言あるものの党のNO2だけに、その発言には常に制約がついて回った。そうした不満の蓄積も安倍総理との決裂に拍車をかけた。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏が解説する。
「今の自民党は“政高党低”で、常に政府が決定し、党の発言力が抑えられてきている。自民党の幹事長は、表向きにはNO2と言われてきたが、石破さんは政策実現能力を抑えられるばかりか、安倍さんに気を遣い、安全保障に関しても持論を展開できないありさまでした。まるで“座敷牢”に封じ込められてきたようなものでしたが、それでも『自民党は地方に支えられている』という思いから、来年の地方選を総仕上げと考えて、地道にコツコツと信頼関係を築いてきていた。そのやさきに今度は新設ポストへの就任要請。石破さんのショックは計り知れなかった」
しかも内閣改造で入閣すれば、次期総裁選への出馬が難しくなる。石破氏の周辺で、安保相就任拒否の声が高まったのも無理はない。
「石破さんの側近たちは、たとえ無役になっても支える意向を伝え、次期総裁選出馬の主戦論で固まっていた。石破氏も『蜂起すれば50人は集まる』と意気揚々でした。以前は、安倍総理を支え、『挙党一致体制』で時を待つという慎重な意見があり、禅譲論という見方もあったが、ここに来て、安倍総理が『オレは(東京五輪の)20年まではやる!』と長期政権に意欲的であり、側近からも『安倍さんの気持ちは、いずれは小泉進次郎。年齢的に見て、女性総理を挟むだろうが、そこに石破さんはない!』なんて挑発的な声も聞かれ始め、石破さんが主宰する派閥横断勉強会『さわらび会』は主戦論に大きく傾いた」(政治部デスク)
ところが、ここでも石破氏は思わぬ誤算に見舞われる。石破氏のさわらび会は昨年10月に96人を集めながら、今年8月に新潟県で開かれた自民党・無派閥連絡会の研修会では30人ほどの出席にとどまってしまったのだ。政界関係者が明かす。
「安倍総理はその数を聞いて『少ないね』と鼻で笑ったと伝えられているが、その一方で石破封じに慎重でしたね。お盆前に河口湖の別荘で夏休みを取っている時に、『石破は安保相を固辞』と聞いて激怒したと情報が流れましたが、実は側近に『まあ、予想どおりだけどな』『しかし、わがままだよね。だから嫌いだ』と言って次の一手を明かしていたそうです。側近は『結局、悪者になるのは石破なんだよ』と、自信ありげでした」
この安倍官邸の手練手管に石破サイドは後手後手に回り、防戦一方の展開を強いられるのだ。