日本人で初めて、テニスの4大大会(全英、全仏、全豪、全米)シングルスで決勝進出の偉業を達成した錦織圭(24)。快進撃を支えたのは、台湾系米国人のマイケル・チャン氏(42)だった。今季からコーチに就任すると、厳しい練習と“言葉責め”で、眠れる才能を一気に開花させたのだ。
全米オープン男子シングルス決勝の大舞台は、日本テニス界の悲願。1918年に熊谷一弥氏が初めて全米に挑戦して以来、96年の歳月が流れていた。
13年6月、ウインブルドン選手権の開幕を控え、ランキングが13位へとアップし、全仏を迎える前には世界トップ10に名乗りを上げた錦織だが、全米オープンでは、まさかの初戦敗退を喫した。日本テニス協会関係者が話す。
「錦織自身が『テニスをやっていて初めて』と、戸惑うほどのスランプに陥ってしまった。周囲のスタッフもトップ10のプレッシャーを痛感し、新しいコーチを探し始めた」
最終的に13年シーズンを世界ランク17位で終えた錦織を救ったのがチャン氏だった。スポーツ紙デスクが語る。
「2人の出会いは3年前。東日本大震災の復興支援を目的としたチャリティでチャン氏が来日し、一緒にプレーをしたのです。その後もメールなどでアドバイスをもらっていましたが、トッププロの指導実績のないチャン氏が『身長やプレースタイルで自分と共通点が多い。経験を伝えられたら』と快諾した」
長身とパワーが武器となるテニス界で、体格に恵まれないチャン氏は、89年全仏オープンを制覇。4大大会男子シングルス最年少優勝記録(17歳3カ月)保持者であり、最高ランクは世界2位。コートを縦横無尽に走り、拾い、華麗なパッシングショットを放つ。常に諦めないメンタル力は絶賛された。
そのチャン氏はコーチ就任と同時に、現役時代の激しい性格を彷彿とさせる“口撃”を炸裂させた。
協会関係者によれば、
「王者フェデラーとの11年の試合前に錦織が『憧れのフェデラー選手と決勝で当たるなんてワクワクします』と発言したことを戒めた。コート外で選手を尊敬するのはいい。しかし、コートに入ったら『お前は邪魔な存在なんだ』『優勝するのはお前じゃない、俺だ!』と言うぐらいの強い気持ちを持て、と説いた」
その鬼軍曹の指導現場はというと、
「4大大会のタイトルを狙うトッププレーヤーには、特別な精神力、ここという局面でのプレッシャーを跳ね返すメンタルが必須。『こんなんで世界一になる? ナメてんのか!』『その身長で他のヤツらと同じことをして強くなれるわけがないだろ』『何で練習場に1時間前に来るのか。2時間前に来てストレッチの時間を倍にしろ』とドSな“言葉責め”をするんです」(スポーツ紙デスク)
今回の全米オープンの決勝前にも、「お前はまだ何も成し遂げていない!」と厳しいコメントで引き締めたという。
スポーツライターが明かす。
「チャン氏の自宅があるカリフォルニアでの練習は、まるで高校生の部活動みたい。チャン氏の『アップ、アップ、アップ』(前へ前へ前)との声が響く中、黙々とフットワークの反復練習。錦織の父・清志氏が『今日は人の目があるから』と苦笑していましたが、2人きりの場では、親にも聞かせられない激しい言葉を浴びせているとか。チャン氏が『俺を嫌いになるだろう』と話しているほどです」(スポーツライター)
テニスジャーナリストの塚越亘氏は言う。
「チャン氏は89年の全仏で、試合中に腕も脚も痙攣に襲われるピンチに見舞われた時、棄権せず、アンダーサーブまでして戦い抜いた(のちに、対戦相手に失礼だろう、と議論になる)。それほどの類いまれな精神力の持ち主です。彼ならエッ!? とビックリするような言葉で叱咤していても不思議じゃないですね。その激励や厳しい教えがきっと錦織君の悲願達成に生きてくると思います」
錦織は超スパルタ指導にも、「チャンに指摘され、こんなに改善できるのだと驚いた」と、全幅の信頼を寄せる。師弟の絆で、次こそはグランドスラム制覇だ!