ヤマハ発動機は7月3日、プールの開発・製造から撤退すると発表した。意外だが、ヤマハ発動機は強化プラスチック(FRP)を使ったプール製造の業界トップであり、1974年から約50年間、6500基以上を全国の幼稚園から大学、スポーツクラブに設置したという。7月14日から福岡で始まる世界水泳に臨む日本代表の練習場、国立スポーツ科学センターのプールもヤマハ製だ。
ヤマハのFRPプールは塩素に強く、万が一、プールの底に叩きつけられた際もコンクリート製のような衝撃は受けないという。
撤退の理由は、受注件数の減少だ。7月4日付の地元紙「静岡新聞」のWeb記事によると〈少子化の影響で学校の統廃合が進むなど需要は落ち込み、ピークの2005年に71億円だった売上高が、ここ10年ほどは約40億円で推移していた。22年はコロナ禍の影響もあって赤字に転落。23年も赤字の見通し〉だそうで、メンテナンス事業に関わる職員を残して、プール事業は消滅するという。
学校の統廃合に加え、体育の授業で水泳指導をしない教育委員会も増えてきた。例えば今年の統一地方選挙では、大泉洋の兄・潤氏が新市長になった北海道函館市もそのひとつだ。
函館市は全ての市立小学校にプールがあるわけではなく、新型コロナ蔓延前はプールのない小学校に通う小学生たちは市内の別の小学校にバスで移動し、水泳の授業を受けてきたという。今年度から水泳授業再開のはずが、新型コロナの影響で観光バスや送迎用バスのドライバーがリストラされ、運転手を確保できなくなった。市教育委員会は、プールのある小学校とない小学校の「公平性を保つために」全小学校での水泳授業の中止を決めたという。
最近の小学校といえば、なにかと公平性を持ち出してきては、徒競走の順位づけも展覧会の表彰も、学芸会の主役選びもなくなった。学芸会に行ってびっくりしたが、auのCMキャラ、三太郎どころではない。浦島太郎が10人いる。乙姫も3人いた。代わりにワカメもその他大勢の雑魚もいないので、竜宮城らしくない。今度は水泳授業までが「不公平の槍玉」にあげられるのか。これではヤマハもプール事業から撤退せざるをえない。
夏休み、全ての親が子供を海水浴やプールに連れて行けるわけではない。短い夏の北海道では尚更だ。自分はスパルタな水泳授業が大嫌いで、雨天中止になると心の中でガッツポーズをしていた子供だったため、大きな声では言えないが、水泳は自分の身を守る「授業」。公正性よりも命の守る教育の方が大事ではないのか。
もっとも、大泉新市長は地元テレビ局の取材に、こう答えている。
「去年のうちからもう少し早く、何か工夫ができればよかったのではないのかなというのは、感想というと他人事みたいで申し訳ないのですが、そういう感じはしています。来年度に向けて、まず知恵を出してどうこれを解決していくか」
近い将来の水泳授業再開に含みを持たせたのだった。
(那須優子/医療ジャーナリスト)