28年余りに及ぶ騎手生活で、意外にもこれが初めての経験だったという。ラジオDJ挑戦である。大観衆の前で馬に乗ることには微塵の緊張もないという天才が、マイクの前では恐縮しきり。それでも、ふだんは語ることのない私生活やアイドル話までリップサービスするなど、華麗な手綱さばきを展開したのだった。
パーッパパパー、パパパー、パッパッパパー、パッパッパパー‥‥。冒頭、レーススタート時のあのファンファーレが鳴り響く。そして「武豊のオールナイトニッポンGOLD」の力強いセリフ。9月26日午後10時、武豊(45)みずからのアナウンスで、番組はスタートした。
これは開局60周年を迎えるニッポン放送が、同じく創立60周年のJRAとコラボした特別企画。競馬界の顔である武に依頼が舞い込み、初DJ実現となったわけである。
とはいえ、しゃべりは苦手だという武が単独で午後11時30分までの1時間半を乗り切るのは不安だということで、友人の俳優・金子昇(39)がゲストで登場。2人の掛け合い形式で番組はスタートした。
まずは騎手の1週間の動き、仕事ぶりを簡単に紹介したあと、休日は何をしているか、の話題に。
武 僕、あまり趣味もないんで、だいたい家にいますね。ビデオ見たり、競輪見たり。競輪、好きなんですよ。ファンの気持ちがよくわかりますね。「この野郎!」って。
金子 「お前、一番人気だろう!」って。
武 思いますね。
スポーツライターの相沢光一氏が言う。
「競輪選手と交流があるから、トップ選手を中心に応援車券を買う、あるいは大レースは買うみたいですね。自分で車券を買ってファンが文句を言う気持ちがわかるようになるのは、騎手として大切なことです」
武は競輪中継番組にゲスト出演するほどの競輪ファン。栗東担当トラックマンがあとを引き取る。
「騎手よりもむしろ競輪選手との交流が深いんです。一流どころ(の競輪選手)は皆、武を知っている。金曜夜9時に調整ルームに入る前の7時頃、小倉競輪場にサンダル、短パン、サングラスで現れて車券を買っている姿をよく見ましたね。変装のつもりなのか、でも夜だからサングラスはかえって目立ってましたけど(笑)。吉岡稔真(44)、村上義弘(40)とは特に仲がよく、プライベートでも飲んでいます」
競輪メディアで村上と対談した際、武は12年のKEIRINグランプリで村上が優勝した時の車券を当てたことを告白。
「村上が負傷明けで人気薄だったことで、相当儲かったと、もっぱらの噂です」(栗東担当トラックマン)
かつて雑誌のインタビューで「ギャンブルする時は、ヒット狙いはしません。ホームランか三振かという張り方をします」と答えていた武だけに、なるほどという感じなのである。