地方公共団体の財政は、景気対策や税収の不足などで財源不足が深刻な様相を呈しているのが現実だ。そうした中、熊本県は、「くまモン」を地方債のキャラクターに起用。その神通力はいまだ絶大なようなのだ。
熊本県は9月26日、ゆるキャラで人気の「くまモン」をキャラクターに採用した全国型市場公募地方債、「くまもとが好きだモン債」を100億円発行すると発表した。募集期間は、既に終了。県によると、自治体の公認キャラクターを活用した発行は全国初で、感謝状やオリジナル写真などの特典付きも珍しいという。くまモンの起用理由を、熊本県財政課担当者はこう語る。
「これまでは機関投資家がメインの購入層でしたが、個人投資家にも関心を持っていただくことにあわせて、全国的に本県のPRを行うことが狙いです。現在、どの県の公募債も、購入者が得られるメリットには大差がないため、全国的知名度を持つくまモンに一役買ってもらい、差別化を図ったしだいです」
県の意図は当たり、くまモンファンの30代から年配まで、幅広い年齢層からの問い合わせが相次いでいるという。
実際、日本銀行熊本支店が試算したくまモンの経済波及効果は、「ゆるキャラグランプリ2011」でくまモンが優勝した11年11月から13年10月までの2年間で1244億円にも上ったと言われている。それだけに、熊本県の財政の鍵を握る「くまモン」への期待の大きさをうかがわせる。経世論研究所代表で経済評論家の、三橋貴明氏が解説する。
「熊本県の13年度財政支出額は、約7344億円。プライマリーバランスとしては270億円の赤字です。くまモンの経済波及効果、1244億円全額を所得と換算して、そこから税金やキャラクターグッズ制作費等を差し引くと、手元に残る実質額は、恐らく2年間で200億円程度。マクロ経済では、特定のヒット商品では赤字を補えないというのが定説ですが、マイナスを補填するまでには至っていないのが現実です」
三橋氏によれば、こうした地方財政の惨状は、熊本県のみならず、全国規模に及ぶ。その窮余の策として、先月の内閣改造で安倍晋三総理が、自民党幹事長だった石破茂氏を「地方創生担当大臣」として入閣させ、「マンパワーは地方から都市に来る」をうたい文句に地方創生を目玉政策に掲げている。だが、その見通しについて前出・三橋氏は厳しい見方をする。
「安倍総理は“経済音痴”。アベノミクスの『3本の矢』も全て失敗していますから、地方創生相も成功させられるはずがない。熊本県がくまモンを起用して他県より抜きんでようとしたのを見てもわかるとおり、地域の自主性を基本とした地方創生を進めてしまうと都道府県同士の競争になり、勝ち組と負け組に分かれるだけです」
来年予定されている消費税10%への増税も、地方財政悪化に拍車をかけると、三橋氏は断言する。
「消費税8%の現段階で、4~6月期のGDP成長率は、マイナス0.7%。7~9月期もほぼ同率で、ゼロ成長に等しい。庶民の所得イコール経済規模で、地方の税収入を増やすためには、庶民の所得を増やして、そこから引かれる税金を増やすしかない。10%増税はとんでもない。ますます消費が冷え込み、税収入も減るだけです」
とはいえ、観光のみならず財政健全化のために、一肌脱いだ「くまモン」のインパクトは抜群。人気も全国区だけに、地域経済の活性化の起爆剤としてもますます活動の幅を広げることとなりそうだ。