原発立地県で発行される「地方紙」には多くの原発広告があるはず──そんな疑問から、延べ136年間もの莫大な量の新聞を調べた結果が本になった。暴露されたのは「広告料」を軸にした「原発」と「メディア」の“収賄”関係。圧倒的な地域シェアの媒体は住民を洗脳するために使われていた!
10月1日に発売された「原発広告と地方紙──原発立地県の報道姿勢」(亜紀書房)。1960年代から遡って地方紙に掲載された原発広告の量と内容を調査したものだ。著者の本間龍氏が語る。
「完全に国民をダマそうとする意図が政府や電力会社にあり、その意図に基づいて40年以上も行われてきた事実を見ていただきたい。国民の原発に対する無知をいいことに、電気料金を使って洗脳を続けてきました。そのことを思い返してほしい。現実味を帯びてきた再稼働も皆さんをダマすものです。証拠はこの本の中にあります」
地方紙の地域シェア率は、同じ地域に配られる朝日・読売などの全国紙を圧倒的に凌駕している。
「日本の原発の4分の1が集中する原発銀座──福井県の福井新聞はシェア率72.8%です。生まれてから死ぬまで、その新聞しか読んでいない人もいるでしょう。ネットが登場する以前は反論するものがない。一方向的に情報を伝えることができたわけです」(本間氏)
大手広告代理店で18年間勤め、担当地域の売り上げを6倍にした経歴を持つ本間氏は、いわば地方広告のプロ。一般読者にわかりやすいように、データの「量」にこだわったという。
「環境NGOのグリーンピース・ジャパンに協力いただき、三十数名のボランティアの方が7カ月、一つ一つの紙面をチェックしました。延べ136年間分の新聞を調査した集大成です」(本間氏)
広告主が広告を媒体に出すことを「広告出稿」と呼ぶ。電力会社は広告料を「普及開発関係費」として計上する。1970年~2011年までの電力9社の合計額は、実に約2兆5000億円にもなるのだ。
「広告代理店時代、担当地域には原発がなく、地方銀行が地方紙へ最も多く出稿していました。それでも年間5億~6億円。ローカル企業の広告料はそんなものなのです。一方、東京電力も関東ローカル企業ですが、05年には1年間で約290億円もの広告料を出している。これはありえない。まさに桁が違うわけです」(本間氏)
広告の分量を示す基準としたのが「段」である。新聞1面は15段あり、「段数」の合計で広告の量を視覚化している。段数が多ければそれだけ多くの原発マネーが使われたことになるのだ。
「私の担当していた地域の銀行で出稿段数は年間は100段もいかないくらいです。原発関連は年間200段、300段を平気で出稿している。事故があると増えるのは、新聞で『賛成』と書きにくくなったので、代わって広告を使って安全神話を宣伝するということです」(本間氏)
「原発広告出稿段数表」によると、原発広告は69年の福島民報から始まることがわかる。67年に福島第一原発が着工し、71年に運転を開始する。この時期が原発広告の始まりだった。
出稿段数の増減は、まさに原発の着工、稼働や事故と連動していることがわかる。では、歴史的事故の年を見てみよう。
79年、アメリカのスリーマイル島原発で人為的ミスによりメルトダウンが起こる。のちにレベル5(最高はレベル7)と判定されたこの事故は日本に伝わり、作り上げてきた原発の安全神話が崩壊しかかった。原発立地県民の不安を解消するためか、この年の広告出稿量の合計は前年の389段の約2倍に当たる789段となっている。