安倍元総理の銃撃事件から、この7月で丸1年が経過したが、旧統一教会をめぐる社会問題は、いまだ解決の光が見えてこない。
その旧統一教会に1992年に入信し、突如として渡米。世間を騒がせたのが、キャスターとしても人気上昇中だった、タレントの飯星景子である。
彼女が当時出演していた「プレステージ」(テレビ朝日系)でスタイリストの女性に誘われ、旧統一教会の関連団体「アジア平和女性連合」の総会で司会を務めるようになった。1992年3月のことだった。
そして翌4月には教会の「祝福講義」を本格的に受け始め、それと並行して「作家活動に専念したいから」と所属事務所を辞めて、レギュラー番組も降板。すると一部週刊誌で「翌年の合同結婚式に参加することが決まった」と報じられるなど、事態は急展開を見せることになる。
そんな中、10月1日になって、彼女の父でジャーナリストの飯干晃一氏が沈黙を破り、東京・赤坂のTBSで緊急記者会見を開く。教会に対し、堂々と宣戦布告したのである。飯干氏は目を真っ赤にしながらこぶしを握り締め、こうブチ上げた。
「統一教会は宗教の仮面をかぶったサタンだ。悪魔ですよ。そして『飯星景子』を桜田淳子や山崎浩子に続くPRの目玉として考えているんだろうが、私は残りの半生をかけても、統一教会を潰すまで断固闘います。景子が戻ってきても闘い続ける。戦う以上、勝ちます。(娘には)ドアは開かれている」
結果、この記者会見の後、彼女は帰国。晃一氏の説得により、教会の教義に疑問を抱くようになり、脱会を決意したと、当時は伝えられていた。
しかし、事実は若干、異なっていたようである。昨年12月には「報道の日2022」(TBS系)の取材に、次のように語っているからだ。
「当時はもう、私は逃げるみたいにアメリカに行っていたので、父の会見は見ていないんですよ。(中略)父は私がアメリカから帰ってくるのを手ぐすね引いて待っていて。新約聖書、旧約聖書、外伝から統一教会の経典と言われる原理講論まで全部読んで、私を論理的に論破しようと思っていたんですよね。でも私は全然聞く耳持たず、『あなたと私は違う人間』って、壊れたテープレコーダーみたいに繰り返して、父は万策尽きた様子でした」
そんなある日のこと。飯干氏からドライブに誘われたという。目的地に着くと、
「父が下を向いたまま『会ってもらいたい人がいるんだ』と。その時の顔があまりに弱々しく、10歳も20歳も年老いたお爺さんに見えて。今まで見たことがない父の姿を見た時に、私を覆っていたものがほどけたんだと思います」
そう、彼女の心を大きく動かしたのは、常に強気の姿勢を見せる作家としての父の姿ではなく、苦悩し、困惑し、狼狽する、ただただ娘を愛するひとりの父親の姿だったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。